オープンイノベーションを成功に導く
戦略コミュニティ

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イノベーションを生みだす条件として、企業内部で閉じた開発モデルからの脱却が叫ばれて久しい。その間、製品やサービス開発の現場でさまざまな「オープンな」取り組みが試行された。ただし、やみくもに人を集め、一緒に作業するということでは、イノベーションは生まれてこない。成功には方法が必要なのである。
そこで、数多くの実践と成功例がありながら、その意義や方法がまだ語られていないオープンモデルに注目する。「コミュニティ」である。これまでこのキーワードがビジネスで語られるときは、企業と顧客を結びつける媒介、具体的にいえば、宣伝機能のひとつであった。しかし、今日のビジネスにおいて、コミュニティは「何を作るか、どうつくるか」を決定するプロセスとなりつつある。つまり、バリューチェーンの風上において、「意識的」かつ「戦略的」に活用すべき手段となっている。
クリエイティブ・エージェンシーのロフトワークで代表取締役社長を務める諏訪光洋は、クリエイターのネットワークやコミュニティを活用し、企業の課題解決に取り組んできた。創業から約20年を経て見出した、現代のビジネスにおける新しい戦略論である「コミュニティファースト」の可能性を探っていく。

諏訪光洋(Mitsuhiro Suwa)
1971年米国サンディエゴ生まれ。慶應大学総合政策学部を卒業後、Japan Timesが設立したFMラジオ局「InterFM」立ち上げに参画。同局最初のクリエイティブディレクターへ就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、NYでデザイナーとして活動。2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。 グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材に向き合うクリエイティブ・ラウンジ「MTRL」、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD」などを運営。https://loftwork.com/

 どうすればオープンイノベーションは成功するのか――さまざまな開発現場でこんな問いを耳にすることが増えてきた。イノベーションを求める多くの企業が、ヘンリー・チェスブロウが提唱した考えをもとに、外部との接点をつくりはじめた。しかし、思ったように成果があがらない。現場からも、経営者からも、ため息が聞こえてくるようだ。

 さまざまなフィールドから知見を集め、ぶつけ合うことがイノベーションの土壌となることは間違いない。だが、ワークショップを数回行ったところで生まれるのは、一瞬の火花でしかない。火花を炎にし、そしてイノベーションを起こすには、継続的な取り組む「方法」が必要になってくる。

 数多くの製品やサービスの開発現場と向き合うなかで、私は外部との協働によってイノベーションの可能性を高める方法に注目してきた。キーワードは「コミュニティ」だ。

 コミュニティという言葉の意味は幅広い。地域社会、SNS、趣味のサークル、あるいは宗教的なつながり……どれにも当てはまる。いかなるコミュニティであっても、その本質には人のつながり、継続的なコミュニケーション、意識の共有といった人間関係がベースになっていることは変わりない。

 私はこの連載のなかで、戦略的につくり出し、運用していくコミュニティ、いわば「戦略コミュニティ」の可能性について考えてみたい。戦略コミュニティはイノベーションを生みだす可能性を高めると同時に、新規事業やスタートアップにおけるビジネス設計において、効果的に外部の視点を取り入れる仕組みとなる。

 誤解を恐れずに言えば、「ビジネスを成功させるために、まずはコミュニティをつくろう!」ということだ。このメッセージを数々の事例や識者の言葉と照らし合わせながら伝えていくのがこの連載の趣旨である。

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