ビジネス・スクールが
実務家に貢献するうえで必要な3つの改革

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いまも昔も、米国ビジネス・スクールでは、影響力の高い学術誌への論文掲載実績が重視され、その成果に応じた地位や給与が用意されている。経営学の研究において学術的な厳密性が大切である一方で、それが実験室の中でしか通用しない研究を推進する動機になることも事実であろう。本記事では、そうした弊害の実態と、3つの改革案が示される。


 経営学者らが直面している最大の課題の1つは、「学術的な厳密性」と「経営実務家にとっての有用性」を兼ね備えた知識を生み出すことの難しさである。我々は、アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル誌の論説の中で、この課題の一因である2つの問題について説明している。

 1つ目は、我々が「移転の欠如」と呼ぶ問題だ。つまり、スキルや実務の向上方法に関する情報を求めて学術誌に頼る経営者が、ほとんどいないという事実である(そうした出版物の例を挙げると、『アカデミー・オブ・マネジメント・アナルズ』『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』『アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー』『ジャーナル・オブ・アプライド・サイコロジー』『オーガニゼーショナル・ビヘイビア・アンド・ヒューマン・ディシジョン・プロセシズ』など)。

 ある研究報告によれば、マネジャーは、学術誌で報告されている、研究に裏打ちされたマネジメントの知見には気づかないことが多い。そして、そのような知見は通常、実務家向けの雑誌には掲載されない。

 さらに、マネジャーは、長らく真実とされてきた説に執着する傾向がある。たとえそれらの多くが、経営学者による研究では否定されていても、である。

 たとえば、部下への業績評価でのミスをなくすには、上司に訓練を施し、どんなミスが生じやすいのか、どうすればそれらを回避できるかを認識させればよいと、ほとんどのマネジャーはいまだ信じている。だが実際のエビデンスを見ると、そのような訓練はむしろミスを増加させうることが示されている。

 2つ目は、我々が「移転以前の欠如」と呼ぶ問題だ。つまり、学者たちが、マネジャーや従業員からのインプットなしに研究をデザインするという傾向である。研究結果の貢献対象は彼らであるにもかかわらず、だ。

 学者たちは、実務家の経営管理手法の向上を助けたい、ビジネスの現場にインパクトをもたらしたいと思うのであれば、これら2つの問題に対処する必要がある。

 残念なことに、ビジネス・スクールにおける教授への褒賞方法の現状が、これを非常に困難にしている。なぜなら、ほとんどのビジネス・スクールでは、教授の昇進と昇給は主に、Aランクの査読誌への論文発表数――つまり、インパクトファクター(被引用回数の多さに基づく影響度)の高い学術誌への掲載実績に基づいているからだ。

 このような論文発表をキャリア進展の主要な「通貨」として用いることで、次の4つのように意図しない結果を招いている。

 第1に、褒賞や表彰といったキャリア進展に関わる賞与を決めるにあたって、「Aランク」誌への論文掲載ばかりをカウントしていると、教授は実質的にこう思うだろう。マネジャーにもっと広く読まれている他の媒体での発表を選んだら、昇進しないことになる、と。

 第2に、教授による学究のあり方として、「Aランク」誌への論文掲載数を他の方法よりも重視することは、教授が「エンゲージド・スカラーシップ(社会に主体的に関わる学問)」に代表される活動に従事する能力を弱める。学者は、知識を活用してコミュニティの社会問題の解決を助ける過程で、研究や学習をするが、論文偏重ではそうした機会が失われてしまうのだ。

 第3に、教授の学問的貢献を「Aランク」誌への論文掲載数で評価すると、研究の発表数をできるだけ増やすよう彼らを誘発することにつながる。このことは時として、比較的手軽な調査データ収集の手法に頼るよう学者を促してしまう。

 外注によるサンプルの入手(アマゾンのメカニカルタークのデータ収集ツールなど)、手軽に入手しやすいサンプル(自分の生徒を含む)、在校生らを活用した室内実験などがその例である。もっと時間を要する調査手法――異文化間の民族学的調査やその他の定性的調査、縦断的調査、数十年にまたがる調査、一般公開されているアーカイブデータベースを手作業でカスタマイズするなど――は、より一般化が可能な結果が出やすいにもかかわらず、重宝されなくなる。

 たとえば研究者が、従業員は特定のインセンティブにどのように反応するかを理解したいとしよう。これらのインセンティブに対する米国の学部生の反応を測定した研究結果は、一般化できる余地が限られており、ほとんどの職場環境や異文化においては、まったく妥当でないかもしれない。

 研究の方法論に関するある批評は、次のように結論づけている。マネジメントの研究者がやっているのは、「すでに自分が知っていること、過去に実行済みのこと、効率よく容易なこと、そして褒賞されること(すなわち学術誌に掲載されること)である」。これらは必ずしも、最も啓蒙的あるいは有用な行為ではない。

 第4に、教授の学問を「Aランク」誌への論文掲載数ばかりで評価すると、学者は、これらの学術誌に受理されるような成果を生み出すために、倫理的に問題のある研究行為に手を染めようとする恐れもある。

 たとえば、基本的に発表不可能な(すなわち、有意でない)結果が出た変数を除外するかもしれない(「お蔵入り問題」と称される現象)。あるいは、予想外の結果が出た際に、あたかもそれを最初からの仮説通りであるかのように提示するかもしれない(HARKing:結果がわかったあとに仮説をつくる、と呼ばれる現象)。このような行為は、研究対象への理解を弱めるのみならず、研究の妥当性をも疑わしくするものだ。

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