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社会を激変させる可能性を持つブロックチェーン
人々の反応はインターネットの初期を見るようだ

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分裂騒動や投資家の投機的な動きなど、仮想通貨に関する報道が相変わらず新聞・雑誌を賑わせている。一方、その基盤技術となっているブロックチェーンについて、一般社会の理解はまだまだ追いついていないのが実情ではないだろうか。社会を激変させるプラットフォームとしての可能性を持ちながら、多くの人々の反応は、インターネットの初期を見るようだという国立情報学研究所の岡田仁志准教授に、仮想通貨の貨幣としての条件、ブロックチェーンエコノミーの可能性について聞いた。

ブロックチェーンは“天然の監査システム”

――2014年のMTGOX事件をはじめ、価格の乱高下や個人投資家の投機的な動き、さらには年初のコインチェック事件などをもって、「仮想通貨は終わった」とする向きもあります。一連の出来事をどのようにご覧になりましたか。

岡田 仁志(おかだひとし)
国立情報学研究所 情報社会相関研究系 准教授

東京大学法学部第一類、第二類卒業。1998年、大阪大学大学院国際公共政策研究科博士前期課程修了。同研究科博士後期課程中退。同研究科個人金融サービス寄附講座助手を経て、2000年から国立情報学研究所助教授。2004年より現職。総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻准教授(併任)。仮想通貨の登場が国家・社会・経済に及ぼす影響について研究している。近著に『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』(東洋経済新報社)がある。

 確かに、いろいろな出来事がありましたが、仮想通貨をどう正しく扱うかという技術的な観点からは、かつてといまで本質は変わっていません。正しく扱う技術を知っていながら、あえてそれを使っていなかったというのが、さまざまな問題の根源です。

 分散型の仮想通貨は、ブロックチェーンという基盤技術の上に成り立っています。これは、電子データであるコインを二重使用できないようにする仕組みなので、正しく利用すれば安全性を表現できます。ブロックチェーンにも技術的な課題は存在しますが、着実に改良が進んでいます。

 分散型仮想通貨の先駆けとも言えるビットコインとイーサリアムは、オペレーターが管理しているのではなく、ブロックチェーンというコード(プログラム)が動かしています。中央に運営者がいなくても正しく動き、コインとして表現された価値を二重使用できないように設計されており、秘密鍵を持っている人しかコインを動かすことはできません。

 さらに仮想通貨を安全に扱うために重要になるのが、2つ以上の鍵が揃わないと価値を移転できない、マルチシグネチャ(マルチシグ)という技術です。ビットコインを利用するには、スマートフォンのなかにお財布ソフト「ウォレット」を入れますが、そのなかにあるのは秘密鍵だけです。未使用残高(UTXO)は世界中に分散するノード(結節点)と呼ばれるコンピューターによって記録されています。世界には約1万1000個のノードが存在し、すべての取引記録を共有しています。一方、秘密鍵さえ手に入れれば、コインの価値を移転することができるので、攻撃の対象になります。プロのサイバー攻撃から一般の環境にあるマシンを守るのはとても難しいので、マルチシグの活用が進みました。

 ある時期までは、仮想通貨の取引所にアカウントを開設すると、ウェブウォレットを設定してくれて、ここに保有するビットコインのアドレスと取引履歴が表示されていました。これによって、ユーザーは自分が行った取引が正しく行われているかどうかを確認することができ、またマルチシグによって、自分だけでは守り切れない秘密鍵の安全性を、プロに関与してもらうことで担保することができていました。

 ところが最近は、マルチシグを使ってユーザーにビットコインアドレスを付与するのではなく、取引所が顧客用のアカウントをまとめて設定し、それを取引所のアカウント取引として動かしていく傾向にあります。取引所にとっては効率的ですが、ユーザーは自分が依頼した取引を、個人の秘密鍵に対応したブロックチェーン上で確認することができません。

 ブロックチェーンは“天然の監査システム”です。事後的に監査法人が何かを調べなくても、ブロックチェーン上で取引した時点で監査が終わる仕組みになっています。ここで挙げたマルチシグはブロックチェーン技術の一例ですが、ほかにもセキュリティを高める提案が詰まっています。その優位性が最も活用されるべきところで、活かされなかったことが、前述の悲劇をもたらしと言えます。

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