日本企業はどのようにして
イノベーションを活性化すべきか

――東京大学大学院経済学研究科特任教授 半田純一

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イノベーションが活発に起きるようになるためには、何が必要か。東京大学大学院経済学研究科特任教授の半田純一氏は、連続してイノベーションを起こした日本企業の共通項を分析して、4つの必要条件を見出したと言う。その研究成果をもとに、日本企業のためのイノベーション活性化策を伺った(聞き手:大坪亮・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長、構成:奥田由意・フリーランスライター、撮影:嶺竜一)。

価値観を共有できる人がいて
シリコンバレーは成り立つ

――日本はしばしば、イノベーション欠乏症の状態にあると言われます。原因はどこにあるのでしょうか。

半田 純一(はんだ・じゅんいち)
東京大学大学院経済学研究科特任教授
1957年生まれ。東京大学社会学科卒業。ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。1988年から約17年間にわたって、マッキンゼー・アンド・カンパニー、A.T. カーニーなどのグローバルコンサルティングファームで経営コンサルタントや経営者として活動。武田薬品工業コーポレートオフィサー人事部長等を経て、2016年より現職。主著に『100年企業の研究』『ITマネジメント』(ともに東洋経済新報社)など。

 イノベーションは日本に限らず、どの国であっても、そんなに簡単に起こるものではありません。魔の川(研究から製品化を目指す開発に進む間にある障壁)、死の谷(開発から事業化へ進む間にある障壁)、ダーウィンの海(事業化したものが市場の淘汰を経て成功を収めるまでの間にある障壁)、といった難所をいくつも超えなければならないと言われるように、まず膨大な数のトライアルがあって、そのほとんどが失敗に終わる中、めげずにやり続けることで、社会にポジティブなインパクトを与えるものが残るのです。

 もちろんイノベーションを起こしやすい風土や条件というものもあるでしょうし、日本企業にそれらが足りているのかどうかは精査する必要がありますが、イノベーションを起こせるほどには、いろいろな試みが生まれていないことが、イノベーションが起きにくい一番の理由です。

――日本と比べて、米国にはシリコンバレーがあり、イノベーションが多発しているイメージがあります。

 イノベーションを起こすのが大変なのは、米国であっても同じです。どうしたらイノベーションが起きやすくなるかという試行錯誤の結果、シリコンバレーが誕生したのです。

 オープンアーキテクチャーで、イノベーションの種がたくさん生まれる場を作り、そこで萌芽した事業がIPOでさらに大きくなったり、大企業がM&Aによって継承したりします。多くの企業がイノベーションに取り組みつつも、一部を外部化し、社会全体の仕組みとしてイノベーションを促しているのです。このビジネスエコシステムは、年月をかけてようやく今の形になったのであって、一朝一夕にはできません。

――同じ仕組みを日本でつくることは可能でしょうか。

 日本でもできないとは考えていませんが、現実的ではありません。なぜか。シリコンバレーは、特定の地域を指すわけでなく、極端に言えば、シリコンバレーで活躍している人や起業したい人の、心の中にあるものだからです。

 そこには、アイデアを持った人、スタートアップ企業、インキュベーター、アクセラレーター、ベンチャーを買う企業など、あらゆるステークホルダーが集まっています。みんなそれぞれの思惑、ロジック、理念で動いています。その全員がただ一点、イノベーションを生むという価値観において一致しているのです。このように共有できる求心的な価値観があってこそ、これだけ多様な組織が互いに手を組むことができるのです。

 シリコンバレーは重層的な仕組みで動いています。そして、価値観を共有するということは、口で言うほど簡単ではありません。

 トヨタ生産方式がいい例です。世界中の企業が生産効率を上げる手段として、トヨタ生産方式を採り入れていますが、なかなか思うようには機能していません。もちろんトヨタ生産方式は手法であり、マニュアル化することはできます。しかし、その手法はトヨタや系列の会社が持っている価値観を共有することで、初めて有効になるのです。形だけ真似してもうまくいきません。

 価値観の共有だけではなく、社会的基盤の違いという問題もあります。技術者の流動性、リスク選好のあり方など、社会的、経済的な仕組みが米国と日本では違います。日本の社会的、経済的な条件は、シリコンバレーのようなエコシステムを支えるために適当とはいえないのです。

――では、日本でのイノベーションの起こし方を、どう考えるべきでしょうか。

 私は、イノベーションは、シュンペーターが想定した非連続的・破壊的なもの、つまり昨今のデジタル革命のようなものばかりでなく、それこそ、トヨタ生産方式をはじめとした生産現場の改善のように、連続的・漸進的なものも含むと考えています。なぜなら、経済・社会は非連続・連続の両方のイノベーションによって発展するものだからです。

 一般的に日本の優良製造企業は、漸進的な製品革新・工程革新・組織革新などが得意で、非連続的な製品革新・事業革新はあまり得意でないと言われてきましたし、少数の例外を別とすれば概ねその通りだと思います。この現実を踏まえて、日本企業は、強みを生かし、弱みを補うという戦略に立脚すべきであると考えます。

 具体的には、まず、簡単に真似されない強みである多能工のチームワークや、統合型の現場力、つまり「中をまとめる力」を生かし、複雑なインテグラル型(調整集約型)の製品や部品で勝負し続けることです。

 次に、そうした強い自社製品を、急成長するシリコンバレー型オープンプラットフォームに連結していくことが重要です。それには自社発のオープンインターフェースを作り、それを介してオープンプラットフォームに接続する必要があります。そのように、したたかなアーキテクチャ戦略を構想し遂行する能力、つまり「外の世界とつなぐ力」を持つことです。それは、これまで意識的に傾注してこなかった路線だと思います。

 この「中をまとめる力」と「外の世界とつなぐ力」の2つのバランスをとることが、今求められているのです。

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