Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

デジタル技術の社会実装に正解はない
中国IT企業から日本が学ぶべきポイントとは

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グローバルに加速するデジタル技術の進展について、もはや中国企業の存在を抜きに語ることはできない。中国企業から革新的な製品・サービスが生まれるようになったのは何故か。中国のIT企業から日本は何を学ぶべきか。「中国企業のイノベーションと産業集積の高度化」を研究テーマとし、現在も月に一度現地を訪れ、フィールドワークを重ねる東京大学社会科学研究所准教授の伊藤亜聖氏に解説してもらった。

経済構造の変化とモバイル経済化が加速するイノベーション

――ここ数年、中国企業から革新的な製品・サービスが開発されるようになった背景とは。 

伊藤 亜聖(いとうあせい)
東京大学社会科学研究所 准教授

慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。大学院時代に中国人民大学(北京)、中山大学(広州)に滞在し、中国経済について研究する。東京大学社会科学研究所特任助教、同講師を経て、2017年より現職。著書・共著に『現代中国の産業集積-「世界の工場」とボトムアップ型経済発展』(名古屋大学出版会、2015年)、『現代アジア経済論 「アジアの世紀」を学ぶ』(有斐閣、2018年)など。 写真は、メイカースペース(創客空間)の一つ、「Xファクトリー」でプレゼンしたときの模様(右、提供:伊藤亜聖氏)。

 確かに、中国メディアが「新四大発明」の1つに挙げるモバイル決済は、サービス開始からまだ3年程度ですが、もはや新たな社会インフラとなっています。

 かつて中国企業は、先進国企業を物まねし、キャッチアップすることで経営を拡大してきました。ところが、2008年のリーマンショックや2000年代後半の賃金上昇によって、中国経済自体の構造転換が不可避となり、安価な部品を組み立て、海外に輸出する製造業も少なからず倒産しました。

 それから5年後、華為技術(ファーウェイ)など、それまでB2B向けビジネスを手掛けていたIT企業がコンシューマービジネスに本格的に乗り出したこと。また、中国のモバイル経済化の進展に伴い、デスクトップ・コンピューター上のソフトウェア、サービスを開発してきたインターネット企業がビジネスモデルを大きく変革するなかで、アリババ・グループ、テンセント、百度(バイドゥ)といった有力企業がモバイル時代に対応し、クローズアップされるようになりました。

 構造変化とモバイル経済化は競争と淘汰をもたらす一方で、ベンチャー・エコシステムも急速に発達させました。これらのなかには、前述のITジャイアントに挑戦するようなベンチャー企業も登場しています。

――この時期の中国でイノベーションが加速して、日本でそれが起きなかったのは何故ですか。

 経済成長のステージ、そしてベンチャー企業の数が違うからではないでしょうか。中国の経済成長は鈍化したとはいえ、それでもGDP成長率は6%台です。中国のなかでも元気な地域・産業は2ケタに近い成長を遂げています。深セン市は2017年の経済成長率が8.8%ですし、モバイル決済関連企業の売上げは前年比100%増という時期が続きました。

 マクロ経済の成長は減速する一方で、ベンチャーエコノミーやモバイルエコノミーといったニューエコノミーの成長が加速しているのが現在の中国です。対する日本は、一人当たり国民所得が何十年も前に先進国の水準に到達し、労働人口の減少もあって、潜在成長率は低くならざるを得ない状況です。

 ステージが違うとはいえ、ニューエコノミーをどう盛り上げていくかは、日本経済にとっても大きな論点です。政府は先日の「未来投資会議2018」で、2023年までにユニコーン企業を20社創出するという数値目標を掲げましたが、メルカリのような企業が何社も出てくると、その波及効果は大きいと思います。東京大学からも技術系のスタートアップが生まれ、「本郷バレー」とも呼ばれつつありますが、こうしたボトムアップの取り組みを一層強化していく必要があるでしょう。

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