アナリティクス・エコノミー時代を切り開く
透明性の高いAIとアナリティクスライフサイクル

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「収集したデータをいかに活用して、付加価値を創出するか」が問われる時代に入り、ビッグデータのアナリティクスの注目度は高まる一方である。アナリティクスのシステム開発を40年間以上手がけてきたSASのCOOオリバー・シャーベンバーガー氏が来日したのを機に、アナリティクスやAIの発展や活用の方向性についてインタビューした(聞き手:大坪亮・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長、構成:奥田由意・フリーランスライター)。

今後はアナリティクスが
テクノロジーを牽引する

編集部(以下色文字):AIやIoTなど情報とそれにまつわるテクノロジーが重要になる中、SASはこれからの時代をアナリティクス・エコノミーの時代と称していますが、それはどういうものなのでしょうか。

オリバー・シャーベンバーガー(Oliver Schabenberger)
SAS Institute COO兼CTO
1995年バージニア工科大学で博士号を取得。2001年同大でテニュア(終身教授資格)を得る。米国統計学会フェロー。ソフトウェアやアルゴリズムに関する3件の特許を保有。2002年SASの研究開発部門に入社。従来のアプローチよりも迅速に問題解決する高性能なビッグデータ・アナリティクス・アーキテクチャを構築した手腕により、2016年CTOに昇進。SASの研究開発を指揮。2018年1月より現職。

 

SAS Institute
1976年創業。アナリティクスのリーディングカンパニー。アナリティクス、ビジネス・インテリジェンス、ならびにデータ・マネジメントに関するソフトウェアとサービスを通じて、83,000以上の顧客サイトにサービスを提供。世界に約400のオフィスを構える。

オリバー・シャーベンバーガー(以下略):経済は、あるものに何らかの価値を付加して、他人に渡すことでまわっています。データとアナリティクスも同じ構図です。

 データが世界を牽引し、ますます重要性を持つ時代になってきていますが、生のデータそのものには価値はありません。重要なことは、データをどう解釈するのか、データから何を引き出すのか、にあります。データに価値を付加することが重要で、そこが、SASが長年従事してきている「アナリティクス」です。データがビジネスを動かすための燃料だとしたら、アナリティクスがエンジンなのです。

 データにアナリティクスを用いて付加価値を創出する。これがアナリティクス・エコノミーと呼ぶゆえんです。データを統計や機械学習などの分析手法を通して、そこからモデルやアルゴリズムを導きだし、意思決定や予測に役立てるのです。

 たとえば、ビッグデータがビジネスを変えると言うことは、より正確には、ビッグデータからアナリティクスによって引き出されたものが世界を変えるということで、その意味でアナリティクスの方に重点があるということですね。

 はい。そして、これまでは、テクノロジーの進歩によって、アナリティクスの可能性が広がってきたのですが、これからは、その力関係は逆転するでしょう。これまでアナリティクスというのは差別化要因に過ぎませんでしたが、これからはディスラプティブ、破壊要素として、アナリティクスがテクノロジーを牽引していくことになるでしょう。

 AIはどのような位置付けになるとお考えですか。

 アナリティクスの方法論のひとつがAIです。AIシステムはさまざまなアナリティクスの上に構築されています。アドバンスト・アナリティクスの延長にあるのがAIです。そして、このAIを含むアナリティクス・エコノミーでは、次の5つのトレンドが重要です。デジタル化、自動化、拡張、接続性、インテリジェンスです。

 テクノロジーの最先端では、量子コンピューターやブロックチェーンなどの動向や影響が取り沙汰されますが、その底流には必ずこの5つのトレンドがあります。これは最近出て来た潮流ではなく、昔から続いているものです。それぞれひとつずつとっても、多大な影響力があるものですが、5つのうちのいくつかを組み合わせることで、シナジーが高まり、より多くのことができるようになります。

 たとえば、皮膚科医と同じレベルで良性と悪性の皮膚がんを識別する画像診断のアルゴリズムがあります。このアルゴリズムはスタンフォード大学でアナリティクスを利用して作ったもので、13万枚の画像データをAIにディープラーニングで学習させて開発しました。これをスマートフォンにアプリとして入れることで、誰でも医療診断ができるようになりますし、診断結果を蓄積することで、疾患の地域的な偏りなどを把握し、疫学に活かすこともできます。

 また、追加のテストをフィードバックして、診断結果が確定されれば、それを自動的にアルゴリズムが学習して、アルゴリズムの精度はより高くなります。これらは、接続性、人間の能力の拡張、自動化などのトレンドの象徴であるといえるでしょう。

 AIは新しく生まれたテクノロジーではなく、これまであったアナリティクスの延長線上にあり、アナリティクスが継続的に進化し続けてきた結果出てきたものです。われわれSASは、AIは手がけていないのかと聞かれることがありますが、実は創業から42年間ずっとアナリティクスという形でAIの開発に携わっています。それをAIと呼んでいなかっただけなのです。

 もうひとつアナリティクス・エコノミーの時代に重要なことがあります。それは、アナリティクスの民主化です。すべての人がどのようにアナリティクスに関わっていくか、参画していくかが重要になると思います。

 具体的にどのようなことですか。

 アナリティクスのプラットフォームに、誰もが容易にアクセスできることです。統計学を修めて、プログラミングの技術を持ったエンジニアしかアナリティクスに関われないのではなく、誰もが簡単に使えるシステムを、私たちSASは実現しつつあります。

 ビジュアライザーションとSaaS(Software as a Service)の技術の進歩によってそれが可能になりました。

 ビジュアライゼーションはプログラミングの知識がなく、コードを一行も書けなくても、マウスのクリックひとつで、直接アナリティクスのシステムを操作できます。SaaSによって、これまで大きなシステムとしてデータセンターにあったものを、必要なサービスだけ切り出して、オンラインでソフトウェアとして使えるようになりました。

 もちろん従来のようにプログラミング言語を介した使い方で、高度な使い方や適用が可能ですが、SAS Viyaというシステムでは、RでもPythonでも、SAS言語でも、どのプログラミング言語でも、自由にアクセスすることが可能です。Viyaのシステムはオープンで柔軟、接続性や拡張性があるつくりにしています。

 従来のシステムは、それを開発した固有のプログラミング言語に通じていなければ使えなかった。それが、どのようなプログラミング言語でも同じ環境で作業できるし、プログラマーでなくても、画面から操作することが可能になったということですか。

 はい。こうしたアナリティクスの民主化により、プログラマーでない人がアナリティクスを使える、参加できるのは画期的なことだと思います。プログラミング言語を問わないことで、これまでとは違ったビジネス領域の人たちの参入を促します。それは、新しいビジネス領域の開拓につながります。

 オープンなシステムであることで、さまざまな部門間、プログラムとの連携、共有、拡張、協業の可能性も出てきます。

 SASのAIがディープラーニングやニューラルネットワークを駆使することによって学習した成果を、別のプログラムに埋め込むことも容易です。ディープラーニングの知識がなくても、そのまま埋め込むことができるのです。あるいは、ビジネス・インテリジェンスで得られた知見をSASのアナリティクスのシステムのなかに、そのままフィードバックすることも可能です。別のものとの統合がワンフェイズでできるのです。

 さきほどのお話の接続性や拡張というところですね。ほかにもアナリティクスがより使いやすくなるような工夫はありますか。

 スマートデータプレパレーションというしくみがあります。簡単にいうと、データを分析する前の準備作業においてAIを使うことで、データ処理の時間を短縮します。

 実は、アナリティクスの前に、大量に集めたデータを分析しやすい形にきれいに整えたり、データの中から必要な部分を探索したりという作業が発生します。従来は優秀なデータサイエンティストでもそこに8割の労力と時間をかけざるを得ませんでした。分析をしたり、データからモデルをつくったりする、という重要な段階にたどり着くまでに膨大な時間をかけているのが現状でした。

 それが、スマートデータプレパレーションによって、AIがデータの前処理をするため、8割のリソースを使っていた部分を2割に圧縮できます。そうすると、データサイエンティストは、本来時間をかけて開発すべきところに、8割の労力をかけることができ、より価値のあるものを作り出すことができるようになります。

 AIがデータサイエンティストに置き替わったのではありません。さきほどの5つのトレンドのうちの人間の能力の「拡張」で、AIが前処理をすることで、データサイエンティストが持つ能力をより価値のある仕事に振り向けられるということです。

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