GMの歴史から考察する、テスラの将来

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GM中興の祖、アルフレッド・スローンの影でその名が忘れられている人物がいる。それは、創業者のウィリアム・デュラントである。起業の専門家スティーブ・ブランクによれば、デュラントがたどった栄枯盛衰は、イーロン・マスクとテスラの将来を考えるうえで示唆に富むという。


 スタートアップを立ち上げて、売上高100億ドルという世界最大規模の企業へと成長させた後、解雇された起業家がいる。彼の名を耳にしたことのある方は、おそらく少ないだろう。その後任となったのは、近代企業の概念を考案した人物だ。

 テスラに関して相次ぐネガティブな報道を耳にする昨今、同社の将来と、そこでのイーロン・マスクの役割について知りたいと強く思われる方は多いはずだ。そのためにはまず、20世紀からの自動車産業の歴史を少しばかりおさらいするとよい。

アルフレッド P. スローンと近代企業

 アルフレッド P. スローンは、20世紀中盤までには世界で最も有名な実業家となっていた。近代的企業の創案者として知られるスローンは、1923年から1956年までゼネラルモーターズ(GM)の社長を務めた。米国の自動車産業が、米国経済の牽引役の1つに成長していった時代だ。

 今日、米国内を見渡せば、スローンの名をあちらこちらで目にすることができる。アルフレッド P. スローン財団、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院、スタンフォード大学スローンプログラム、ニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターなどだ。スローンの著作である『GMとともに』は、半世紀以上も前に書かれたものだが、いまでも読み応えのあるビジネス書の古典である。

 ピーター・ドラッカーは、次のように記している。スローンは「大企業を体系的に組織する方法を初めて考案した。1923年にスローンがGMの社長に就任したときに、計画立案、戦略、測定指標に加え、最も重要なこととして、分権化の原則を導入した」

 スローンは1920年にGMに加わると、あることに気づく。従来の中央集権型で機能ごと(営業、製造、流通・販売、マーケティング)に編成されているマネジメント構造は、GMの多様な製品ラインを管理するのに適していないということだ。

 その年、同社は破産寸前であった。経営陣がオペレーション上のあらゆる細部を、全部門にわたって調整しようと試みる一方で、お粗末な生産計画により過剰な在庫が生まれ、売れ残った車がディーラーのもとに山積みにされ、現金は底をついていた。

 スローンは、ピエール・デュポン(GMの取締役会長)が自社デュポンで先駆的に行っていた組織的実験を借用して、GMを機能ではなく事業部ごとに編成し、責任を本部から各事業部(シボレー、ポンティアック、オールズモービル、ビュイック、キャデラック)へと移管した。それぞれが自部門の日々のオペレーションに専念し、各事業部長が自部門の損益に責任を持つ。スローンは本部スタッフを少人数に留め、方針策定、全社財務、計画立案に集中させた。そして、各事業部に体系的な戦略策定を開始させた。

 今日では、事業部制は企業組織の形態として当たり前になっているが、1920年当時は、デュポン以外のほぼすべての大企業が機能ごとに編成されていたのだ。

 スローンはまた、管理会計システム(これもデュポンからの借用)を導入。これにより、次の3つが初めて可能になった。(1)各事業部の財務予測(売上高、費用、資本要件、投資利益率)を本部の財務目標と比較し、年間の業績予測を作成。(2)各事業部のほぼリアルタイムでの売上報告と予算状況を知ることで、本部が事業部を管理でき、事業部の計画逸脱を把握できる。(3)全社的に標準化された業績指標に基づいて、リソースと報酬を割り当てる。

近代的マーケティング

 スローンが1923年にGMの社長に就任したとき、フォードが米国の自動車市場でトップシェアにあった。T型フォードは、たった260ドル(今日の3700ドル)であり、フォード車が米国市場の60%を占めていた。これに対し、ゼネラルモーターズは20%。スローンは、GMは価格では勝てないと気づく。

 そこで同社は、車の多ブランド化を図り、それぞれに独自のアイデンティティを持たせて、国内の特定の所得層をターゲットとした。低価格から高価格までブランドを設けたのだ(シボレー、ポンティアック、オールズモービル、ビュイック、キャデラックの順)。それぞれのブランド内でも、異なる価格のモデルを複数用意した。

 その狙いは、顧客の所得が上がるに伴い、よりよいブランドへとアップグレードしてもらい、いつまでもGMから離れずにいてもらうことだった。最終的にGMは、毎年ニューモデルを発売して自社製品を継続的に陳腐化していくことで、ブランド内での永続的な需要を保つというアイデアを生み出した(毎年ニューモデルを発表しているiPhoneは、その申し子だ)。

 1931年までには、優れた財務管理と、巧妙なブランド・製品ライン戦略が相まって、GMは43%のマーケットシェアを獲得した(フォードは20%)。その後、同社はトップの座を譲っていない。

 スローンは、企業経営を真の専門職へと変えた。GMのビジネスモデルの継続的かつ厳格な業務遂行ぶりに、それがよく表れている。

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