相手の考えを変えたければ、
自分が話すのをやめて、まず聞こう

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リーダーには人を動かすことが必須であり、そのために「話し方」の重要性が説かれることは多い。ただ実際には、それと同じくらい「聞き方」も大切である。特に、相手の考えを変えたい場合は、自分の答えを押し付けるのではなく、ともに同じ結論に達しなければならない。本記事では、「自分のアイデア」を「全員のアイデア」に変える方法が示される。


 パキスタンのフェミニストにして人類学者で映像作家でもあるサマール・ミナラー・カーンは、激しい怒りを覚えていた。地元部族の指導者たちが、男性の犯した罪の代償として、その家族の娘を売買していたからである。

 部族のリーダーたちは、村でのもめごとを解決する役割を担う「裁判官」役だった。そして重大な犯罪があると、加害者一族の娘を被害者一族に差し出して解決するのが長年の習慣だった。罪を犯した父なり叔父なりは、それで自由の身になるとされ、「問題は解決した」と村中が納得させられていた。

 サマールは、「スワラ」と呼ばれるこの風習を忌まわしいものだと思った。何の罪もない少女の人生を永久に変えてしまうのだから。ただ、サマールは怒ってはいたが、怒りに任せて行動しても望ましい成果は得られないだろうと考えた。

 そこで、別の手に出ることにした。まず、自分が話すよりも相手の話を聞くことを優先した。彼女は男性の宗教的指導者が、スワラの適用方法とそのメリットを説明するのを聞いたうえで、この習慣を預言者モハンマドならどう考えるだろうかと尋ねた。また、この方法で罪を許された父親や叔父たちの話も聞いた。このようにさまざまな話を聞き、非常に多くのことを学んだおかげで、一見すると埋めがたい溝を埋めることに成功した。

 サマールは当初、この方法で罪を許された父親らは、娘が代わりに苦しむことを何とも思っていないのだろうと考えていたが、話を聞くとそうではないことがわかった。彼らも、異なる解決策を望んでいたのだ。次に、部族の指導者たちからは、伝統を徹底して重んじていると聞いた。さらにイスラム教の法学者からは、スワラは一種の「使用者責任」であって、イスラム教では禁じられていることも聞いた。そして最後に、昔も何か争いがあると、娘を相手側の家族に送ることで解決していたことを聞き出した。ただし、娘はずっと相手側にいるのではなく、贈り物をもらって親の家に送り返されていた。サマールはこうした話をすべて動画に収録した。

 これらの動画をサマールは地域の人々と見て、伝統とその意味について、1人ひとりと語り合った。部族の指導者たちは1つひとつ、それまで真の正義と考えられていた風習を変えていった。スワラの代わりに賠償金を支払ってもよいことにしたのである。サマールは自分の考えを主張するのではなく、全員がともに新しい考えに至るような方法を取ることで、変化をもたらしたのである。

 サマールは、相手に意見を聞かせてくれと頼んだのであって、自分の考えで相手を説得したのではない。まるで映画の脚本のようで、ビジネスリーダーへの実用的なアドバイスになるとは思えないかもしれない。しかし、実はビジネスリーダーはここから学ぶべきなのだ。

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