取締役会の役割を
「形式」から「実質」へ進化させる
米国を中心に、いま、取締役が企業経営に果たす役割が見直され始めている。従来のような不正の防止という受動的な役割にとどまらず、戦略上の重要な判断にまで影響を与えるようになった。日本でもこの動きは見られ、たとえば社外取締役の導入などが進んでいるが、単に形式的な存在であることも多い。本連載では、マッキンゼー・アンド・カンパニーの知見と綿密な調査に基づき、取締役を経営の主体へと進化させるために不可欠な論点を提示する。連載は全7回。
米国において、1970年代には、独立社外取締役比率は約20%程度であった。しかし、その20年後の1990年代には、この比率は実に60%超となっており、この期間に約3倍以上となった。
その要因の1つとして、社会保障の充実に伴う年金基金の巨大化など、機関投資家が存在感を高めたことも挙げられる。実際、機関投資家の株式保有比率は、1970年代から90年代の間に約20%から50%を超すまでに増加していた。一部、アクティビストと呼ばれるような機関投資家が、経営陣の交代やM&Aなど、大きな戦略上の判断にまで影響を及ぼすケースも見られるようになった。
また、企業の巨大化や事業のグローバル化が進展し、企業経営が高度化するなかで、鉄道会社の大型経営破綻や大企業の粉飾決算等により、各ステークホルダーのガバナンスに対する課題認識が高まり、独立社外取締役の割合や人数、報酬・指名・監査等の委員会に関する法規制整備が進んだことも背景にある。
日本はその頃、高度経済成長からバブル期であり、メインバンク制と呼ばれる銀行によるガバナンスが、外部視点でのガバナンスにおける主な役割を果たしていたといわれている。
実際、1970年代の日本における株式保有比率は、個人株主と持合い株主がそれぞれ30%を占め、銀行と保険会社が約15%ずつ、機関投資家は10%以下という構成であった。こういった物言わぬ株主が大半の株主構成の中で、最大債権者でもあるメインバンクが、企業に対する役員派遣等を通じてガバナンスを行使していたと考えられる。
しかしながら、バブル崩壊後、日本の株式保有構造は大きく変化した。銀行や保険会社、その他持合い株主の株式保有比率は急激に減少し、2013年には海外機関投資家が30%以上、国内機関投資家も20%弱を占め、機関投資家比率が約50%に至っている。
これはちょうど、米国における1990年代の機関投資家保有比率に近い。機関投資家の存在感が高まる中で、資本市場からの適切なガバナンスと株主リターンに対する要請も高まってきた。そして、そういった市場からの圧力を有効に活用し企業の成長に繋げることを企図した政策(2014年の日本再興戦略等)が成長戦略の1つとして掲げられる中で、日本版スチュワードシップコードが2014年に制定され、さらに2015年にコーポレートガバナンスコードが適用されて独立社外取締役の割合を増やす流れが加速したことは、ある意味、必然的な流れであったとも考えられる。
上記のような流れを受け、たとえばトヨタなどの主要な日本企業では、2010年代から、企業統治改革の一環として社外取締役を登用する動きが表面化してきている。花王などのように、独立社外取締役が議長を務めるなどの先進的な取り組みも見られる。監査等委員会設置会社は、会社法改正後2年で約800社に導入された。
こうした流れは、2017年末の伊藤レポート2.0や、2018年に提示される予定の金融庁の新たな企業統治指針により、さらに加速する可能性が高い。最近発表された会社法改正試案においても、社外取締役の義務化が項目の1つとして挙げられている。また、議決権行使助言会社であるISSが新たに改定した議決権行使助言基準では、指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社については、取締役選任議案に関して、取締役会に占める社外取締役の割合が3分の1未満となる場合、経営トップとなる取締役の選任議案に反対を推奨することが推奨されている。
このように日本では、形式的にはガバナンスの素地が整ってきている。一方で、取締役会の実質的な活用については、さらなる工夫と経験が必要である。

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