「つながっていたい」気持ちは
人間の本能である

孤独と仕事に関する研究からわかること

さまざまな研究から、孤独は個人にも組織にも悪影響があることがわかっている。孤独は人の心身を蝕み、それは組織の生産性や創造性を損なうからだ。しかし、孤独の解消は意外に簡単で、周りの弱いつながりの人(コーヒーショップの店員や、たまたま電車で隣り合わせになった人など)との交流でも、思いがけないメリットがあるという。本稿ではさまざまな孤独に関する研究から「つながりの大切さ」を検証する。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2018年6月号より、1週間の期間限定で全文をお届けする。

孤独は個人にとっても
組織にとっても不健全

 孤独に関する文献を調べてみれば、すぐに痛ましい統計を目にするだろう。すなわち、「心を許して話せる相手がいない」人の割合が1985年以降、3倍に増えて25%に達したというのだ。

 これはインターネット上でよく見る統計だが、誤りである。このデータの出所である調査論文[注1]は、米国人の半数近くが孤独を感じているとも示しているが、この論文自体、複数の追跡調査で事実に反することが実証されている。結局のところ、「誰にも心を許せない」人の割合が急増したように見えるのは、調査の構造的欠陥のせいだと判明しているのだ。事実、当該論文の執筆者の少なくとも一人は、データの信頼性が低いことを認めている。しかし、このデータがあまりに生々しいために根強く残り、ミレニアル世代の特性から民主主義後退の理由に至るまで、あらゆることを説明する根拠(あるいは説明材料)として使われている。

 実際のところ、孤独を感じる人の割合が上昇しているのか、研究者らは確信に至っていない。孤独を感じる人が絶対数で増えていると報告する調査も一部にはある。孤独を感じる人の割合は変わらなくても、高齢化とともに絶対数が増えるというのだ。また、テクノロジーで状況が悪化しており、大事な人たちとの関係が疎遠になっていると論じる研究もいくつかある。

 最近のある調査では、フェイスブックの利用と「ウェルビーイング」(well-being)との関係が明らかになっている。すなわち、フェイスブック上でのアクション(「いいね!」や近況の投稿、掲載リンクのクリック)が増えると、自己申告による精神的な健康状態が悪化するというのだ。一方、PC画面やソーシャルメディアのおかげで、通常では生まれないつながりが形成されているとして、テクノロジーの効用を指摘する調査もある。

 はっきりしているのは、世界中で多数の人が孤独を感じており、孤独は個人にとっても組織にとっても不健全であるということだ。

 どの程度よくないのか。ある論文が健康面への影響として挙げているのは抑鬱症の発症や自殺願望の増加、血圧の上昇、ストレスホルモンの増加、免疫機能の低下である。孤独はアルツハイマー病や睡眠障害、アルコール依存症、がん、早世とも関連性がある(ある調査では、「ラットを隔離すると乳がんの発症が増え、隔離されていないラットに比べて腫瘍がかなり大きくなった」という深刻な結果が出ている)。

 別の調査によれば、乳がん生存者のうち、社会的に孤立した人はそうでない人に比べて再発率やがん関連の死亡率、全体的な死亡率が高かった。2つの異なるメタ分析では、孤独と孤立が喫煙や肥満に匹敵する公衆衛生上のリスクであると示され、世界各国で報じられたこともある。

 しかも、孤独はオンライン上ではなく、実際の社会的ネットワークを通じて広がる。言い換えるなら、孤独は伝染する。シカゴ大学教授のジョン・T・カシオポが率いた研究は、次のように論じている。

「社会的ネットワークの周縁部で、ある驚くべきパターンが確認された。周縁部の人々は友人が少ないために孤独を感じるが、その孤独感ゆえに、残り少ない友人関係も断ち切ってしまう。だがその前に、残っている友人に同じ孤独感が伝染し、このサイクルが連鎖する傾向がある。こうして孤独が増殖する結果、毛糸のセーターが端からほつれるのと同じように、社会的ネットワークも周縁から崩れていく」

組織が支払う
孤独の代価

 以上はすべて、組織にも通じる。孤独な働き手が健康を損なえば、当然ながら生産性も仕事の献身度も低下する。この相関関係は多くの研究で裏付けられている。たとえば、ある研究によれば、病欠日数の3分の1が精神面の不調によるものだという。ウェルビーイングであれば欠勤日数が少なく、評価や生産性が高いことも示されている。

 もっと具体的に孤独の弊害を割り出す研究も増えている。複数の研究では、ホテルのスタッフ、学校長、医療従事者などで、孤独感と組織への献身度の間に関連性があることが裏付けられた(興味深いことに、出稼ぎ労働者を対象としたある調査では、孤独感と献身度の間に相関関係はなかった)。中国企業5社で実施された調査では、孤独を感じている従業員は創造性が低いことが明らかになっている。

 出稼ぎ労働者の間でも、孤立の副作用は十分に裏付けられている。したがって問題は、孤独感を軽減する方法ははたしてあるのか、となる。孤独感を和らげることによって健康上の問題を軽減するだけでなく、健康を増進することは可能なのか。その答えはどうやら「イエス」らしい。

 孤独や孤立、その影響を克服する最良の方法は、心理学者が言うところの「向社会的行動」(対人的なつながりを積極的に求め、促進する行動)だ。終末期のがん患者を対象とした調査によると、日常的に他の患者と触れ合う患者の生存期間は、そうでない患者の2倍に達した。また、中国の研究者によれば、「リーダー・メンバー交換関係」(LMX)を通じてリーダーが部下に思いやりを示すと、孤独感の悪影響が軽減され、ひいては創造性が高まった。

 研究者らが「日々の向社会的行動の実践」と呼んでいるのは、基本的には他者に思いやりを示し言葉を交わすことである。これが孤独の治療薬として有効であることが、ある調査で明らかになった。この調査は、マドリードにあるコカ・コーラのスペイン本社で働く人々を対象としたもので、被験者を「与え手」「受け手」「対照群」に分けている。与え手にはコーチングを行い、指定された受け手に対して毎日5つの親切行為をするように指導した。その結果生じた向社会的行動は、短期的(数週間後)にも長期的(数カ月後)にも、双方によい影響をもたらした。

 与え手の報告によれば、憂鬱な気分を感じることが少なくなり、生活と仕事に対する満足度が向上したという。一方、受け手は幸福度が増した。そして決定的なのは、受け手自身が向社会的行動を取る可能性が、対照群の278%に跳ね上がったことである。孤独は人に伝染するかもしれないが、向社会的行動も同じく伝染するようなのだ。

人間関係は
どんなものも大事

 孤独や孤立に関する研究はたいてい同僚や友人、家族との関係を対象としている。そうした人々との関係が親密で日常的にやり取りしていれば、幸せで、孤独を感じることも少ない。しかし、遠い関係の人々にも思いがけない力があることが、ブリティッシュコロンビア大学のジリアン・サンドストロームとエリザベス・ダンの研究で明らかになった。それによると、「弱いつながり」[注2](あまりよく知らない同僚、フィットネスクラスで一緒になった人など)を相手にちょっとした向社会的行動を取った人々は、不要な会話を避けた人々よりも孤独感や疎外感に苛まれることが少なく、ウェルビーイングや満足度が高いことが報告された。

 サンドストロームとダンは、ビジネスではお馴染みの「効率性」を切り口として孤独について調査した。この簡単な調査では、コーヒーショップに向かう人々に働きかけ、半数の人には店員と社交的な会話をしてもらった。つまり、知らない人を自分の社会的ネットワークの中の「弱いつながり」と想定して接してもらったのだ。また、残りの半数の人々には、できるだけ効率よくコーヒーを買ってもらった。その結果、最初のグループのほうがショップでのウェルビーイングや満足度が高くなった。

 サンドストロームとダンの調査では、向社会的行動が孤独を軽減するだけでなく、環境に対する満足度を高めることも明らかになっており、カリフォルニア大学バークレー校のジュリアナ・シュローダー助教授もその点を検証している。シュローダーは遊園地で列に並んで待っている人々に依頼し、そばにいる知らない人たちと交流してもらった。すると、待ち時間が短く感じるうえに、遊園地での体験を高く評価する傾向があることが確認できた。ちょっとした呼びかけで体験全体がより楽しいものとなったのだ。

 ハーバード大学教授のマリオ L. スモールは著書 Someone to Talk to[注3](話し相手)の中で、弱いつながりとの交流は、医師の診断を受けたり車を修理に出したりするなど、あらかじめ計画されたものが多いが、(たまたま近くに人がいて)反射的、偶発的に生じることも意外に多いと指摘している。胸の内を明かす相手がこうした弱いつながりの人々である場合も予想以上に多く、実際には、打ち明ける相手の半数近くが弱いつながりの人だとスモールは言う。こうした弱いつながりは、思いがけない恩恵をもたらすとスモールは結論している。

話しかけることに
抵抗を感じるのはなぜか

 したがって、話は極めて簡単に思える。社交的になり、知らない人にも話しかければ孤独は軽減できる。では、なぜ孤独を感じる人が後を絶たないのか。なぜ誰もが同僚や友人たちと笑みや言葉を交わし、部下に思いやりを示せるようにはならないのか。

 シカゴ大学教授のニコラス・エプリーと前述のジュリアナ・シュローダーは論文 “Mis-takenly Seeking Solitude”(孤独を招く誤解)[注4]でこの問題を取り上げ、「他者との交流で幸福度が増すにもかかわらず、近くにいる知らない人たち同士は、日常的に無視し合う」と指摘している。

 通勤で電車やバスを利用する人々を対象に彼らが行った調査によると、知らない人に話しかけることを阻む壁は2つある。

 まず、自分から口火を切りたくはない。それは、相手にされなかったらどうしようと不安を覚えているか、社会的な交流に対する他者の欲求を低く見積もっている(「きっと話しかけられたくはないだろう」と考える)かのどちらかだ。

 2つ目は、一度話し始めたら切り上げられなくなってしまうと心配になる。しかし、こうした障害を乗り越えて話しかければ確実によい影響が広がることも、この調査で明らかになっている。「社会的な交流の帰結を誤解している人は少なくともある意味、自分のウェルビーイングに対して十分な社会性を発揮していないのかもしれない」と二人は論じている。「人間は本来、社会的動物なのだ」

 人間が社会的動物であるという概念は、孤独に関する研究の多くで言及されている。この概念を極めて鮮やかに立証した論文[注5]がある。タイトルは“Creating Social Connection Through Inferential Reproduction”(推論的再生による社会的交流の創出)とかなり学術的だが、副題は核心を突いている。“Loneliness and Perceived Agency in Gadgets, Gods, and Greyhounds”(道具、神、グレーハウンドで確認された代理行為と孤独)というものだ。

 筆者のニコラス・エプリー、スコット・アカリス、アダム・ウェイツ、ジョン・カシオポは、人間的なつながりが不足していれば、人間は周囲にあるもので類するものを再生することを克明に検証している。それは、人間なら誰もがどうしてもやってしまうことだ。つまり、道具や神、グレーハウンドを擬人化するのである。たとえば、映画『キャスト・アウェイ』では、無人島に漂着した主人公がウィルソン社製のバレーボールに話しかける。また、社会的に孤立した人々は神々に対する信仰心が強く、霊を信じやすい。孤独な人がペットの振る舞いについて話す時は、動物ではなく人間であるかのような口ぶりで話す。

 要するに、つながっていたいという人間の欲求は本能に近いものだから、孤立すれば身体に悪影響が出るのは当然である。孤独は飢餓や喉の渇きや愛と同じく、本質的なものなのだ。

【注】
(1)Miller McPherson, Lynn Smith-Lovin, and Matthew E. Brashears, “Social Isolation in America: Changes in Core Discussion Networks over Two Decades,” American Sociological Review, 2006.
(2)weak ties. 接触の回数や頻度が少なく、一緒にいる時間も短い人々との関係を指す言葉で、スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノベッターが1973年に論文 “Strength of Weak Ties”(弱いつながりの強さ:SWT)で用いた。この論文で提示されたSWT理論はソーシャルネットワーク研究の核心を成し、経営学にも強く影響を与えている。詳しくは、「世界標準の経営理論」第27回「『スモール・ワールド』現象は、世界でさらに加速する」(DHBR2016年12月号)参照。
(3)Mario Luis Small, Someone to Talk to, Oxford University Press, 2017.(未訳)
(4)Nicholas Epley and Juliana Schroeder, “Mistakenly Seeking Solitude,” Journal of Experimental Psychol-ogy: General, 2014.
(5)Nicholas Epley, Scott Akalis, Adam Waytz, and John Cacioppo, “Creating Social Connection Through Inferential Reproduction,” Psychological Science, 2008.

高橋由香理/訳
(HBR.org 2017年9月28日より、DHBR 2018年6月号より)
What Do We Know About Loneliness and Work?
(C)2017 Harvard Business School Publishing Corporation.

 

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