著者入山章栄氏らが語り尽くす!
3年8ヵ月、DHBR人気連載の舞台裏

「世界標準の経営理論」最終回記念鼎談

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DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューで好評連載中の「世界標準の経営理論」。3年8ヵ月、計44回にわたる連載が、4月10日発売号でついに最終回を迎えた。連載はいかにして始まったのか、そして連載関係者らの裏話まで。著者の入山章栄氏、連載開始時の編集長岩佐文夫氏、連載を支えてきた永山晋氏の3名で、その裏側を語り尽くす。

すべては、「クレームか?」と
怯えたメールが始まりだった

岩佐文夫(以下、岩佐):まずは、長期の連載、本当にお疲れ様でした。3年8ヵ月…長かったですね。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)の40年に及ぶ歴史の中で、一番長い連載だと思います。

入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学ビジネススクール 准教授
1996年慶應義塾大学経済学部卒業。1998年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーに就任。2013年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。専門は経営戦略論および国際経営論。主な著書に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)がある。

入山章栄(以下、入山):実は今日の鼎談の時点では、最終回の原稿を執筆中なので、まだ達成感がぜんぜんないんですけどね(笑)。(編集部注:鼎談は3月半ばに行われた)

岩佐:あ、まだ執筆中でしたか。最終回の締め切りに間に合いますか?(笑)

 さて、この連載「世界標準の経営理論」は、当時まだアメリカにいた入山先生が2012年に日本で出された著作『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)が、きっかけでしたね。

 当時、この本の帯が本当に挑発的だったんです。「ドラッカーなんて誰も読まない!?ポーターはもう通用しない!?」と書いてあって。

 僕も最初は手に取らずに、無視しようと思ったんです。でも、絶対に人から「岩佐さんよみましたか?」って聞かれそう。そう思って、そんなに乗り気ではなく手に取ったら、これがすごく面白い。

 冒頭には、「ハーバード・ビジネス・レビューっていうのは、もう学会ではまったく評価されない雑誌です」って書いてあるんですよ(笑)

入山:そこまでは書いてないですよ!(苦笑)正確には、「ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)は経営学の『学術誌』ではないので、少なくとも海外では、学者がHBRに論文を載せても評価はされない」と書いたんです。

 HBRは学者が経営分析のためのツールを紹介したり、企業戦略の動向などは語られますが、それらの科学的な分析の仔細が報告されているわけではないので、学者の業績にはなりづらいんですよね。

岩佐:実は、「HBRは学術誌じゃありません」というのは、DHBR編集長として僕が何度も日本で言っているけれども、分かってもらえないことが多かった。だから入山先生のHBRに関するところを読んだときには、これが言いたかったんだよ!と思わず膝を打ちました。

 読み進めると、科学としての経営学に真正面から取りもうとされていることに感動して、入山先生のメールを版元から伺い、連絡をしました。

入山:実は、岩佐さんからメールが来たときは、最初「げっ、クレームかな…」とびくびくしたんです。本の帯に「ドラッカーは読まない」とか「ポーターはもう通用しない」とか書いていて、ポーターもドラッカーも、どちらもダイヤモンド社からたくさんの書籍が出ている。さらに、僕の本では「HBRは学会では評価されない」と書いちゃっている。その雑誌の編集長からのメールですもん、これはやばいなぁ…と(笑)

 でも、2012年の12月だと思うんですが、岩佐さんからメールをもらって、当時はアメリカに住んでいたのでスカイプで話をしたんですけど、そこで意気投合しちゃって。とんとん拍子に「連載しよう!」という話になったんです。

永山晋(以下、永山):岩佐さんは入山先生に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』のような内容を、DHBRでも書いてほしいと思って依頼したんですか。

永山 晋(ながやま・すすむ)
法政大学経営学部 准教授
2009年早稲田大学商学部卒業。2011年同大学大学院商学研究科修了。2017年同大学大学院より博士号(商学)を取得。早稲田大学商学学術院助教を経て、2017年4月から現職。組織論を専門とし、チームや組織のクリエイティビティを主な研究対象とする。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューに論文を発表。入山章栄准教授との共同研究論文がAcademy of Management国際カンファレンスにて組織論部門ベストペーパーにノミネート。

岩佐:いえ、違います。アカデミックな知見とは考えていました。僕は、2000年から2004年までDHBR編集部にいて、その後8年間は書籍編集の部署にいたんです。そして2012年に編集長として戻ってきた。

 僕が離れていた8年間、特に2008年のリーマンショックを境に、HBRが大きく変わっていたんです。昔よりもアカデミックな色が薄くなっていた。昔はまさに論文集のような誌面だったのが、経営者のインタビューなども増えて、より実務にも近寄った雑誌になっていた。

 僕にとっては面白くなっていたけれど、その反面、経営学の新しい知見が誌面に出てきていないな…という思いもありました。

 DHBRが他のビジネス誌と明らかに違うのは、アカデミアの知見を実務家が学べる雑誌だという点。特集内でアカデミックな色が薄まっている分、連載で何かアカデミックなコンテンツを作りたいなと思っていました。そんな思いを抱いていた時に入山先生を知り、連載を執筆してくださるのに、ぴったりではないかと。そう思って依頼したんです。

入山:その話をもらって、じゃあ、どういうテーマで書くか…となった時。

岩佐:「世界初の新しい経営学の教科書を作りたい」とおっしゃっていましたよね。

入山:おっしゃるとおりです。実は経営学に教科書はないんです。もちろんMBA向けの、フレームワークとかを紹介するのはあるのですが、学術的な経営理論を体系的に網羅したものは、世界中を見てもない。僕自身も「経営学の理論を網羅した教科書を教えてもらえませんか?」という質問を良く受けるんですが、それに対する答えは「ないです」というものだったんです。

 現在の経営学は、他の社会科学の分野から理論的な基盤(ディシプリン)を借りて、それを応用して使っています。具体的には、経済学、心理学、社会学の3つです。ディシプリンが異なれば、同じ経営事象に対して異なる見解を持つこともあるし、逆に異なるディシプリンが補完しあうこともある。基本的に経営学者はいずれかのディシプリンに軸を置いて、研究をしているのです。たまたま僕は、3つのディシプリンどれにも持馴染みがあったんです。

 一つのディシプリンに特化して――例えば、経済学ディシプリンのマイケル・E・ポーター教授のように素晴らしい業績を残す才能は、僕には無いです。けれども、3つのディシプリンすべてに、なんとなく土地勘があった。これは経営学者でも珍しいことなんです。だからこそ、ディシプリンをまたがって経営理論を紹介できるかもしれないと思ったんです。経営学のすべての主要理論を網羅した教科書は、世界で誰もやってない。まさに、いま連載していることのイメージが最初からあったんですよね。

岩佐 文夫(いわさ・ふみお)
ハーバード・ビジネス・レビュー元編集長。1964年大阪府出身。1986年自由学園最高学部卒業後、財団法人日本生産性本部入職(出版部勤務)。2000年ダイヤモンド社入社。2012年4月から2017年3月までDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長を務めた。2018年より、フリーランス。ソニーコンピュータサイエンス研究所総合プロデュサー、英治出版フェローを兼務。

岩佐:最初から書籍にする前提で連載をスタートしましたよね。DHBRでこの連載をやったら、経営学に馴染みのない人にも訴求できるし絶対雑誌の格も上がる。かつ、本にもなる。一挙両得の素晴らしいビジネスモデルだなと(笑)

 この連載は、これまでの経営学関連の書籍とは異なり、構成もユニークですよね。ディシプリンで分けて理論を紹介するという構成は、見たことがなかった。だから僕は、当初はこの構成に違和感を覚えました。「入山先生、ファイナンスとかマーケティングとか、そういう構成で区切らないんですか」と。ファイナンス、マーケティング、戦略、リーダーシップ…これらの組み合わせで教科書ができるのが当然だと思っていたんです。

 だから、最初にディシプリンに基づくと言われた時に「ん?」と思った。でも、これまで一般のビジネスパーソンが当たり前だと思っているカテゴリーを覆すものなっている。その意味でも、僕自身読んでみたいと期待が高まりました。

入山:連載原稿も、当初から書籍化を意識して書いていますね。ただ、初めはもっとかっちりした教科書のイメージで考えていたんですよ。けれど、DHBRは学術誌ではなく、ビジネスパーソンをすごく意識している雑誌ですよね。だから、連載もかなりビジネスパーソンを意識したテイストになりました。それは、結果的によかったなと思っています。

「因縁のメンバー」が集まった編集チーム編成

入山:実は、2012年末に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』が発売された時に、ちょうど日本に一時帰国をしていたんです。日本に帰ってきたら当然、自分の本の売上げが気になるじゃないですか。

 僕の実家は東京の西武池袋線が最寄りだったので、池袋のリブロという書店が大好きだったんです。そこで帰国したら早速リブロに行って、どんな風に自分の本が並んでいるんだろうとワクワクして見にいったんです。すると、リブロのビジネス書売り場の一面に、伊賀泰代さんの『採用基準』(ダイヤモンド社)がガーッと並んでいて。大展開されていた……衝撃でした。

 で、待てよ、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』は、どこにあるんだろう…と思ったら、ビジネス書売り場の隅っこのほうにチョロッと置いてあるだけ。それを見た途端、もう打ちひしがれてしまって。泣いて泣いてアメリカに戻ったわけですよ(笑)

永山:『採用基準』ってダイヤモンド社から出ているんですか?

入山:そう、ダイヤモンド社!だから、アメリカに戻ってから岩佐さんとスカイプで話した時に、この話をしたんです。「いや~、日本に帰ったら御社の『採用基準』という本が、すごく売れていて。池袋のリブロでも、大展開されていたんですよ。なんで同じタイミングであんなプッシュされる本が出るんだろう」と話したら、岩佐さんが「先生、その本、僕が担当編集なんです。」って(笑)。

 しかも、この「世界標準の経営理論」の連載担当の肱岡さんも、そのスカイプミーティングにいたのですが、実は彼女が当時書店営業をしていて。「あ、私がその頃、池袋を担当してました。」とか言い出して。「俺のデビュー作を隅へ追いやったのは、お前らかぁ!」みたいな気分ですよね(笑)。僕にとっては、敵のような存在でしたから。

 ものすごい偶然とは言え、連載を依頼してくださった岩佐さんが『採用基準』の編集担当で、そしていまの連載担当の肱岡さんが、当時、書店営業で池袋を担当してその本を売っていた……。すごくないですか!?

永山:すごいですね、偶然とは言え、因縁めいていますね(笑)

オペレーションが不得手な2人の珍道中

入山:岩佐さんにお伺いしたいんですけど、連載が始まって、まず担当編集を肱岡さんにしたのは、どういう意図だったんですか。

岩佐:理由が2つあって、まず連載はオペレーションが重要なんです。雑誌の中では、特集記事がいちばん“ざわざわ”するんです。執筆や取材の依頼によってはスケジュールがぎりぎりになることもあるし、ページ数が予定よりも前後したりと、校了日(締め切り)まで、突発的な動きが多い。

 それに対して、連載は、同じ人が続けて書いてくれるので、内容やページ数が読みやすい。前もって書いてもらうことで原稿のストックも作れる。だから、オペレーションが得意そうな人にやってもらおうということで、肱岡さんを担当にしたというのが一つ目です。

 でも、まんまと当てが外れましたね。期待を裏切られて…こんなオペレーションの下手な人だと思わなかった(笑)。

入山:あ、そうですか? いや、でも……

岩佐:得意じゃないよね(笑)。

――はい、きっちり計画的に作業を進めるっていうのがダメで(苦笑)(編集部注:この鼎談の司会は、連載担当編集だった肱岡彩)

入山:へえ~、そう? なんだ肱岡さん、人のこと言えないじゃん!毎月、僕へのプレッシャーはすごかったですよ。「入山先生、絶対〆切を守ってください!」っていう(笑)

岩佐:連載はある意味、ルーティンで回すのに、肱岡さんはそういうのが苦手なんですよ(笑)

 真面目で抜かりないような顔しているんだけれど。彼女の本当の強みは、道がない状況でも突き進むところなんです、あとから気づいたのですが。今だから言いますが、途中からは、コンビとしては最悪だと思っていました(笑)。

 入山先生もオペレーションの苦手な人、だから「お目付け役」が必要なのに、彼女もスケジュール通りに進めるのが苦手。もう僕から見ると凸凹コンビが、毎回大騒ぎしながら連載に追われているようで、笑うしかなかったです(笑)。

入山:よくいろんな人に言われるんですよ。「毎月あれだけの量で、あの内容を書くって、異常ですよね」って言われて、「いや、そうなんですけど、ちゃんと肱岡さんという方が手綱を締めて……」と。

岩佐:締められてないんで(笑)。締められたら、もうちょっと締め切り前にバタバタせずに、ゆとりを持って編集作業ができていましたよ(笑)。本来、連載の原稿は、雑誌の毎号の中で最初に完成させるべきものなのに、いつも最後でしたからね。

 2つ目の理由が、当時肱岡さんは新卒で入社後、書店営業を経て、編集部に来たばかりで、経営学の知識がなかったからです。この雑誌の特徴は、編集者としてのスキルだけでなく、経営学の知識が求められる。だから、連載担当にしたのは、入山先生には申し訳ないんですが、彼女の勉強のためです。経営学の教科書を目指す連載だから、一通りの知識が編集をしながら学べるという、まさに一挙両得!(笑)。

入山:なるほど(笑)。

岩佐:当時の肱岡さんというのは、何も知らないわけですよ。だから当時は、原稿を彼女に渡して「明らかに間違っていると思う箇所は赤ペンで修正して、自信がないところは鉛筆で直して持ってきて」と。1500字くらいの原稿を編集してもらい、彼女の入れた修正を僕が確認する。そうすると彼女の編集のセンスと経営学の知識がどのくらいかというのが分かる。

 ある時、なおしてもらった原稿の中で「組織のサイロ化」という文章がありました。この言葉は、組織が縦割りになり、硬直的な様子を示す際に使いますよね。でも、肱岡さんの修正原稿を見たら、思い切り赤ペンで「組織のサイコロ化」となっていたんです。鉛筆で指摘するならまだしも、自信満々に赤ペンで「サイコロ」…と。これはかなり重症だなと頭を抱えました(笑)。

(全員爆笑)

――きちんと調べなかった私がいけないんですが……「きっとこの人はサイコロのように多面的な組織」って言いたいんだ!と、当時は思ってしまって(苦笑)

 でも、経営学の知識がゼロの私でも、いまでは経営学の基本的な知識は、きちんと身に付きました。DHBRは難しい雑誌だと思って敬遠されがちですが、この連載は、あらゆるビジネスパーソンが読める、分かりやすい内容に仕上がっていると、自信を持って言えますね(笑)

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