混み合った場所にいると
将来について考えるようになる

人口密度と、そこに住む人々の生き方には相関がある。そんな興味深い研究結果が示された。たとえば、人口密度の高い国では、乱婚が少なく、出生率が低く、幼稚園の入園率が高く、目の前の問題の解決よりも将来への計画づくりが社会的に重視されているという。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2018年5月号より、1週間の期間限定で全文をお届けする。

調査の概要

 ミシガン大学研究員のオリバー・スンとアリゾナ州立大学のチームは、さまざまな国や州の人口密度と、教育への投資、老後に備えた貯蓄など、未来への備えに対する住民の積極性に関するデータとを比較した。分析の結果、人口密度が高い地域の人のほうが、長期的なリターンが得られる活動に積極的であることがわかった。この「混み合った場所にいると、将来について考えるようになる」という研究チームの結論について、スン博士に話を聞いた。

「生活史戦略」に
人口密度がどう関わっているか

スン(以下略):この研究結果や、因果関係を検証するために行ったフォローアップ実験を踏まえて、私は人口密度と生物学者が言う「生活史戦略」との間には相関性があると考えます。

 一般的には、生物は「速く」生きる(いまを重視し、早く繁殖してたくさん子どもをつくり、子どもにも自分自身にもあまり投資しない)か、「遅く」生きる(将来、自己啓発、長期的関係を重視し、子どもはあまりつくらない)かのどちらかだとされます。人間は他の動物よりも遅い生活史戦略を目指しますが、人によってばらつきがあります。また、それは遺伝的な面がある一方、我々は環境への対応という進化も遂げています。

 資源をめぐる争いが激しいであろう人口密度の高い場所では、自分自身や子どもたちにもっと投資しなければならないと考えるかもしれません。私と共著者であるスティーブン・ニューバーグ、マイケル・バーナム、ダグラス・ケンリックは、その仮説を検証したいと思っていました。

HBR(以下色文字):その仮説は正しかったですか。

 はい。人口密度の高い国では、乱婚が少なく、出生率が低く、幼稚園の入園率が高く、目の前の問題の解決よりも将来への計画づくりが社会的に重視されていました。人口密度が高い米国の州は、晩婚で、子どもが少なく、学士号を取る人や老後の貯蓄をする人が多かったのです。

 将来の方針に関わるこれらの尺度は互いに関連していますが、人口密度が基本的な役割を果たしていると思われます。人口規模、経済的繁栄、都市化を調整しても、この研究結果は変わりませんでした。

 将来を考える人は人口密度が高い地域を好む、というだけの話ではありませんか。

 そのため、実証研究をしました。最初の実験では、全米からネット上で募った被験者の半分に、架空の『ニューヨーク・タイムズ』の記事を読んでもらいました。米国の人口が未曾有のスピードで増えているという内容です。その後、彼らの将来の方針を知るため、いくつか質問しました。たとえば、「明日100ドルもらうのと、90日後に150ドルもらうのでは、どちらがよいですか」という感じです。残りの半分は対照群で、記事を読まずに質問に答えました。

 すると、記事を読んだ被験者のほうが、後からより多くのお金をもらいたい、と答える傾向が強かったのです。小さいながら重要な効果が表れました。人口密度の高さをあえて意識させることで、長期的なスパンで物事を考えさせることができたようです。

 読むという行為で脳が活性化し、賢い決定ができただけではないですか。

 次の実験では記事は使わず、2種類の音声クリップ──大勢の人の話し声とホワイトノイズ(あらゆる周波数成分を同等に含む雑音)──のどちらかを聞いてから、質問に答えてもらいました。するとやはり、大勢の話し声を聞いた被験者のほうが長期的な報酬を望みました。

研究の応用は可能か

 消費者マーケティングなどで、こうした傾向を利用できませんか。

 研究の応用についてはあまり考えませんでしたが、製品・サービスの設計やマーケティングには役立つかもしれませんね。混み合った環境下の人たちにアピールするためには、彼らやその子どもたちが得る将来的なベネフィットを強調するのがよいでしょう。人口密度が低い市場では、どちらかといえば目先の満足を強調します。

 社員の視野を短期的なものから長期的なものへシフトさせたい時は、田舎から都会へ転勤させるべきですか。あるいは、雑踏の音を有線で流す狭いオフィスに詰め込むべきでしょうか。

 人によっては多少効果があるかもしれません。でも、いくつか注意すべき点があります。

 第1に、我々の最初の2つの実験では、都会と田舎の違いではなく、国と国、州と州の違いに焦点を当てました。人口密度と都市化の間に相関はありましたが、後者を調整しても研究結果は変わりませんでした。

 第2に、我々の実験では、効果は学術的には小さいものでした。

 第3に、人口増の記事は中立的な方法で示すよう心がけました。人口密度の高さが混沌とした予測不能な環境をもたらしていると感じたら、被験者は「速い」生き方を選択するかもしれません。「この環境は、スキルや知識を身につけることで成功するという意味ですか、それともお互いの顔を殴り合って競争するという意味ですか」と聞かれるかもしれません。

 しかし、混み合った場所は混沌としてストレスが多く、危険でさえあると考える人が少なくありません。

 それは米国にありがちな偏見だと誰かが言っていました。人口密度と都会、犯罪都市、根源的な本能に従った行動とを関連付ける傾向があります。

 私はシンガポールの出身です。(マカオとモナコに次いで)世界で3番目に人口密度が高いのに、極めて秩序正しい国です。混み合った場所が混沌としていないとか、危険でないと言うつもりはありません。そういうケースもあるでしょう。ただ、いつもそうとは限りません。

 その後、米国へ移られたわけですね。人口密度の高さは214ヵ国中161番目です。あなたは「速い」人生を送ろうとされていますか。

 去年、32歳で結婚したばかりですから、そんなことはなさそうです。でも、生活環境の密度が生活史戦略に最も影響を与えるのは、若い時かもしれません。もう2つ実験をして確かめようとしたのは、人口密度の高さに対して、大学生が40歳未満の成人と違う反応をするかどうかです。

 米国の人口増に関する架空の記事を読んだ学生は、リスの数の増加に関する記事を読んだ学生よりも、長期的な関係を望む傾向が強かったものの、子どもが少ないのはあまり望みませんでした。20代、30代の人は子どもが少ないのを望みましたが、家族関係についての考え方は変わりませんでした。したがって人口密度が我々の思考に影響を与えるのは、将来の最優先目標に限ってのようです。

 子どもは何人つくる予定ですか。

 2人かな。でも当分はまだ。最近は立て込んでいるので。


編集部/訳
(HBR 2017年7-8月号より、DHBR 2018年5月号より)
Crowded Places Make People Think More About the Future
(C)2017 Harvard Business School Publishing Corporation. 

 

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