データ分析組織の力を解き放つために必要なこと
――書評『最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのか』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第76回は元大阪ガスのデータサイエンティスト、河本薫氏による最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのかを紹介する。

日本で最も有名なデータサイエンティストが
組織人として成果を上げるまでの18年間の記録

 本書は、日本のデータサイエンティストの中で最も有名な一人、河本薫氏が書いたものである。河本氏は大阪ガスにおいて18年間、データ分析に従事してきた。データサイエンティストという言葉すらなかった時代から大企業の組織に身を置き、データと向き合い、そして成果を上げてきた希有な存在である。河本氏はこの4月に滋賀大学データサイエンス学部に転身しており、その点でいえば、彼自身が組織人としてまとめた「集大成」とも呼べる著書である。

 そういうと、データ分析のテクニカルな内容が並んでいる書籍かといえば、そうではない。「データ分析専門組織を立ち上げたのだが、うまく機能しない」や「これから立ち上げるので、アドバイスが欲しい」。幾多にも上る講演会で聞いた企業の要望に応える「組織論」である。

 本書は7つの章に分けられる。それは「ビジネスアナリシスセンターの実像」「四種類の『人の壁』を乗り越える」「事業部門から信頼と予算を勝ち取る」「分析組織は経営に必ず貢献できる」「メンバーの幸福を勝ち取る」「18年かけて築いた三つの無形財産」「分析組織のリーダーに求められるもの」である。

 このタイトルからも分かるように、本書は組織内でいかにデータ分析組織を定着させ、機能させ、その評価を揺るがないものにしていくのか。そんな河本氏の挑戦や葛藤が描かれている。

 通常、組織内でデータ分析を行う部署は、他部署の「便利屋」になりやすい。他部署からデータをもらい、その課題に合わせて分析結果を提案する。それで業務は終わりである。他部署から見れば分析をアウトソースする格好であり、分析担当者もデータ分析だけで仕事が完結する。

 すると何が起きるのか。河本氏が体験したのは、最先端の手法を用いて作った高度な分析の報告書が山積みにされていくことだった。当初は「すごいな」といわれていたのにもかかわらず、現場では見向きもされないまま放置された。意思決定において「全く役に立っていなかった」ということを痛感したのだ。

 河本氏は「ビックデータという言葉の影響で、大量のデータがあり、それを"料理"できる分析者さえいれば、『素晴らしい成果が出るに違いない』と勘違いしている人が少なくありません。分析者自身まで、そう思い込んでしまう傾向にあります」と指摘する。

 さらに「にもかかわらず、いつまで経っても意思決定に役立ちそうな道筋が見えてこなければ、次第に『役立たない』という烙印を押されて、最後には見向きもされなくなります。厳しいようですが、それが会社というものです。役立たないことには誰も関心を示しません」と加える。

 それでは、彼らのチームはどうしたのか。本書で明らかにしたのは、チームとして独立採算制を敷き、他部署から予算を「獲得する」という体制(スポンサーシップ制度)にしたことであった。簡単にいえば、社内の組織間で業務委託契約を結ぶという仕組みを取り入れたのだ。

次のページ  人件費込みの独立採算制を敷いて
現場の成果に直結する分析組織に変貌
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