Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

デジタル時代の小売業
テクノロジーを駆使して本質的目的の追求を

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あらゆる産業でデジタル化が進み、新たな価値提供に成功した企業が市場を席巻している。デジタル化が与える本質的なインパクトは「デジタル時代のリーダーシップを考える」の寄稿でも紹介したように、新たな顧客体験の創出、オペレーションの抜本的な効率化、およびその両方を実現するイノベーションを生む。小売業はその特性上、新たな顧客体験を創出するうえでは有利な立場にあると言えるが、国内小売業にとっては脅威のほうが大きいと認識すべきである。こうした脅威のなかにおいて、小売業は生き残りをかけ、いかに変化していくべきか。

小売業の生き残りをかけた変化

 デジタル化の進展が小売業にもたらす脅威の一つは、言うまでもなく同業の競合。デジタル化によって飛躍的な成長を遂げる企業が登場しており、国境・業態を越えた戦いが加速する。二つ目は顧客を直接奪おうと来襲するメーカー。メーカーのEC参入は枚挙にいとまがないが、テクノロジーを通じて新たな付加価値を提供する事例も出始めている。

 たとえば、Kellogg’sの子会社のBear Nakedは2016年にIBM Watsonと提携しBear Naked Custom Granolaというサービスを開始、顧客の好みに応じてグラノーラをブレンドしてくれるうえ、送料無料で直接家まで届けてくれる。また資生堂も2018年春より、その時その人に合った化粧品を専用マシンが毎日調合してくれるIoTスキンケアシステム「Optune(オプチューン)」の展開を計画している。環境データやスマホアプリを通じて取得した肌測定データをメーカーが分析し、最適なカートリッジをダイレクト販売するモデルとなっている。

 加えて、特に日本においては、人件費の高騰も非常に深刻な問題となっている。近年、最低賃金は約3%のペース※1で上昇が続いており、3~4年で1割ほどのアップが想定される。消費者物価指数は2014年度以降停滞※2が続いており、最悪のシナリオでは営業利益の半分を毀損する小売業が続出することになる。

 このような脅威のなかにおいて、すべての小売業は生き残りをかけて変化を遂げる必要がある。そのカギはデジタル時代におけるテクノロジーである。

デジタル時代のチェーンストア理論回帰

 では、小売業の戦いのルールが抜本的に変わり、これまでの常識がまったく通じなくなってしまったのだろうか。確かにテクノロジーの進化により、価値の提供手段、そのためのオペレーション方法についてはこれまでの常識が覆されつつある。ただし、本質的に小売業が目指すべきことは変わらない。

 小売業に携わる方であれば、渥美俊一氏が提唱してきたチェーンストア理論をご存じであることと思う。古くから日本の小売業の礎となり、小売業の発展を支えてきた。元来、チェーンストア理論といえば、マスマーチャンダイジング、標準化、バーチカルマーチャンダイジングといったキーワードを思い浮かべる方が多いと思われるが、そもそもの目的は「経済民主主義の実現を目指す」としている。もう少しかみ砕くと「日本の地域住民の“くらし”をがらりと変えること、地域の人々の日常の“くらし”が確実に潤沢になっていくこと」が目的となっている。ここでいう「地域の人々」には従業員も含んでおり、その労働条件を継続的に向上させることも目的に含んでいる。それらを実現するため、小売業はお客様にとっての“生活提案”産業、企業内では“独特の作業システム”産業という性格を持つべきであると唱えている。

 これらはデジタル時代の小売業が目指すところと相反するものだろうか。むしろ、あらゆるトレンドを見てもその本質的な目的は同じであると解釈できる。以下にそのトレンドを紹介する。

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