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人間の能力拡張を実現する「IoA」の時代は
効率性の向上だけでなく、人々の幸福感も高める

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テクノロジーによって人間の能力を増強・拡張させるという「ヒューマンオーグメンテーション学」に取り組む東京大学大学院情報学環の暦本純一教授。IoTの先には、ネットワークによって人や機械の能力がつながる「IoA(インターネット・オブ・アビリティズ)」の時代がやって来ると見ている。そのコンセプトや原点となった発想、最新の研究成果などについて伺った。

人間拡張のベースは「サイボーグ009」

――拡張現実(AR)の研究からスタートして、現在は「ヒューマンオーグメンテーション学」に取り組んでいます。「人間拡張(HA)」とはどのような概念なのですか。 

暦本 純一(れきもとじゅんいち)    東京大学大学院 教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所 副所長       1986年、東京工業大学大学院理工学研究科情報科学科修士過程修了。1986年、日本電気入社。1992年、カナダ・アルバータ大学コンピュータグラフィックス研究所研究員。1994年、ソニーコンピュータサイエンス研究所に勤務。1996年、東京工業大学大学院理工学研究科より博士(理学)取得。1999年、ソニーコンピュータサイエンス研究所インタラクションラボラトリー室長。2007年より現職(兼ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長)。

 人間の能力をテクノロジーによって増強・拡張させることを情報科学のコンテキストで取り組んでいます。広い意味で、ARもHAに包含されます。ARは、自分が見ている視野にCG映像が映し出されるようなグラスを装着すると、現実世界に新たな情報が追加されるというものですが、それはすなわち、人間の視覚を拡張しているわけです。視覚が拡張できるのであれば、聴覚も拡張できますし、触覚などのほかの感覚も拡張できるかもしれません。

 もう一つ、我々が興味を持っているのが存在の拡張です。いま、私はここにいますが、実は遠隔地にいて、あたかもここにいるようにバーチャルに存在しているかもしれません。また、自分がどこかに行ったような気になったりするのも人間拡張と言えます。基盤となる技術はARやVR(仮想現実)、テレプレゼンスだったりしますが、そうした技術が進展していったときに、人間はどう進化していくのかというところに大きな興味があります。

 人間拡張には、前述の知覚や存在にほかにも、身体、認知という四つの大きな方向性があります。身体の拡張とは、外骨格や機械、サイボーグなどで身体能力そのものを増強・補綴するものであり、認知の拡張は、我々が何かを学んだり、習得したりするところも拡張できると考えています。ARやVRにとどまらず、認知科学や生体工学など、広範にわたる要素技術や研究領域が必要となるため、これらを統合する学問領域として、ヒューマンオーグメンテーション学と呼んでいます。

――そうした考え方のベースとなるアイデア、ヒントはあったのですか。

 子どもの頃からSFアニメが好きだったことが大きいです(笑)。二大SFアニメといえば、手塚治虫の「鉄腕アトム」と石ノ森章太郎の「サイボーグ009」で、これらは二つの方向性を示しています。鉄腕アトムは人の姿をしたヒューマノイドで、AIなどによって自律的に動き、人間の代わりになります。一方、サイボーグ009は、人体と機械が融合することで人間の能力が進化しているような感じです。どちらかというと009のイメージに憧れがありましたから、HAの考え方はサイボーグに近いと言えます。

――人間の能力拡張に向け、あらゆるものがネットワークにつながった状態を「IoA(インターネット・オブ・アビリティズ)」と呼んでいます。

 HAの技術が進めば、単体の人間の能力拡張から、ネットワークを前提とした拡張に発展します。ネットワークでつながった第三者が自分の頭のなかに入り込んで(ジャックイン)、追体験することも可能です。人間の能力が本人だけに付随しているのではなく、ネットワークを経由して他人に助けを与えたり、あるいは他人から能力をもらったりすることができます。この他人には人だけでなく、AIやロボットも含まれます。このように人間や機械の能力がネットワークで結ばれていくのがIoAであり、IoTの次にやって来る大きな潮流だと見ています。

ウィリアム・ギブスンのSF長編『ニューロマンサー』(1984年)では、人間が電脳空間(サイバースペース)に没入することを「ジャックイン」と呼んでいる。これにちなんで、人間がほかの人間やロボットに入り込むことを「ジャックイン」と定義した。
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