顧客の「選択」を「習慣」に変える

累積的優位を築く4つのルール

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企業は顧客を逃がさないために、多くの時間と資金を費やして、いままで誰も見たことがないような商品、かつてないほど魅力的な商品で顧客を喜ばせようと努力している。ところが最近の行動研究の成果によれば、顧客の側は、企業の積極的な変革を好むのではなく、自分に馴染みがあって、簡単に買えるものを求めていることがわかってきた。となれば、企業が競争優位を持続させるためには、顧客に「選択」させるだけではなく、「習慣」をつくる必要性がある。本稿では、自社の製品やサービスを、顧客がいつも本能的に快適さを感じて選択してしまうような、「累積的優位」の重要性について論じる。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2018年3月号より、1週間の期間限定で全文をお届けする。

「簡単な選択」の提供が高業績を生む

 2016年の春の終わりに、写真シェア用アプリケーション分野で業界をリードするインスタグラムが、アイコンを変更した。設立以来4億人以上のユーザーに親しまれてきた、昔懐かしいカメラを模したアイコンを、平面的で現代風の(同社デザイン部門の部長によれば)「カメラを連想させる」デザインに変更したのだ。

 ライバルのスナップチャットの脅威が次第に大きくなっているこのタイミングでの変更理由を、その部長はこう説明した。「(これまでのアイコンは)私たちのコミュニティをよく映し出していない感じがしてきて(中略)イメージを改善できると考えたのです」。

アイコンには何が詰まっているのか
インスタグラムの新しいアイコン(右側)は、それまでのアイコン(左側)に慣れたオンラインのコミュニティから、さんざんけなされた。インスタグラムがこの変更を行ったのは、従来のカメラのイメージは、カメラを持ったことのない人々にはピンと来ないと考えたからだ。

 マーケティング業界のバイブル『アドウィーク』誌は、インスタグラムのアイコン変更への評価を記事のタイトルで明確に表現した。「インスタグラムの新ロゴには無理がある。何とか前に戻せない? 本当にだめ?」

『GQ』誌の記事「インスタグラムが思い付きでしでかした、誰も望んでいなかったロゴ変更」の中で、同誌のデザイン委員会は新アイコンを「はっきり言ってひどい」「本当に見苦しい」「ゴミだ」と呼んだあげくに、次のようにまとめたのだった。「インスタグラムは、あのロゴを使ってビジュアルのブランドエクイティを何年もかけて構築し、利用者が端末のホーム画面でどこをタップすればいいか刷り込んできた。にもかかわらず、今回はそれを強調するどころか、お菓子の『スターバースト』のようなロゴにしたことで、ホーム画面からトイレに流してしまった」

 今回の変更がインスタグラムのビジネスに実際どの程度の影響を与えるかを、いまの時点で判断するのは早すぎる。しかし企業がブランドや商品の出直しを図った時に、こうした反応を受けるのは、いまに始まった話ではない。ペプシコによる人工甘味料アスパルテームを使わないダイエット・ペプシの投入は、従来の味を変えて消費者の不評を買った悪名高いニューコークと同じく、見事に失敗して売上高は激減し、結局元の路線に戻さざるをえなかった。

 こうした事例から必然的に思い浮かぶのは、「うまくやっている企業は、大胆な再ブランド化をしたいという誘惑に、どうしていつも抗い切れないのか」という興味深い問いである。深刻な危機にでも見舞われていれば、そうした戦略を採りたくなる気持ちもわかる。しかしインスタグラムも、ペプシコも、そしてコークにもそんな兆候さえなかったのだ(いまや若者の間での市場シェアがとりわけ高いスナップチャットが、お馴染みのお化けのアイコンをいまでも根気よく使い続けているという事実は、注目に値する。なお、念のために開示しておくが、本稿の執筆者アラン・G・ラフリーはスナップ・インクの取締役を務めている)。

 それは、競争優位の本質について大変な思い違いをしているからだ、というのが筆者たちなりの答えである。現代はビジネスがあまりにも目まぐるしく変化するので(おそらくスマホやPCのアプリほど、これを実感できる世界はないだろう)、もはやどんな競争優位も持続できず、企業は自社のビジネスモデルや戦略、消費者とのコミュニケーションを常に新しくして、かつてないほど選択眼の高まった消費者の爆発的なニーズの変化にリアルタイムで対応しなければならない──戦略に関する新しい思想のほとんどは、こう論じる。

 いまいる顧客をつなぎとめ、新たな顧客を引き付けるには、常に顧客のニーズに応えながら、しかも顧客よりも少し先に進んでいなければならない。その点からすると、インスタグラムは自社がなすべきことをまさに行ったことになる。つまり積極的な変革である。

 たしかに鋭い意見ではある。しかしこれが思い違いであることは、多くの事実が証明している。サウスウエスト航空、バンガード、イケアの例を考えてみよう。この3社は1996年にマイケル・ポーターが『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に発表した古典的論文「戦略の本質」(囲み「必読論文」を参照)の中で、長期間にわたって持続する競争優位の代表例として紹介された。

 この論文から20年が経過したが、この3社はいずれもまだそれぞれの業界でトップの地位を占め、当時とほぼ変わらない戦略とブランディングを追求している。グーグルやフェイスブック、アマゾンは今後つまずき、あるいはどこかの新規参入企業に潰されてしまうかもしれないが、ポーターが取り上げた3つの巨大会社の競争ポジションは揺るぎないように見える。

 もっと卑近な例を取り上げると(ちなみに、この論文の筆者の一人はプロクター・アンド・ギャンブル〈P&G〉グループの一員である)、洗濯用洗剤のタイドあるいはヘアケア製品のh&sで、過去50年間ブランドマネジャーを務めてきた者たちがもし、この半世紀にわたって自分たちが築き上げてきた自社製品の優位性が、実は長持ちするものではなかったし、今後もさほど持つものではない、という話を耳にしたら、さぞ奇妙に思うだろう(ダヴのボディソープやヘルマンのマヨネーズといった長寿商品を担当するユニリーバのマネジャーも、同じように感じるはずである)。

 本稿では、行動研究に関する最新の研究成果をもとに、競争優位の持続要因についての一つの理論を提供する。この理論は、インスタグラムのような失敗も、タイドのような成功物語のどちらも説明できる。要は「完璧な選択」ではなく、「簡単な選択」を提供することによってこそ高業績は維持される、ということ。そして、ある価値提案が当初は顧客を引き付けたとしても、顧客をその後も引き留め続けられるとは限らない、というのが我々の主張である。

 これまでとは違うこうした世界観の下で「顧客を逃がさない」とは、消費者ニーズの変化に常に対応しながら、分析的、あるいは情緒的な顧客の選択に完全に合わせようとすることではない。ポイントは「顧客の手間をはぶいてやる」ことなのだ。そのためには、いわゆる「累積的優位」(cumulative advantage)をつくり出す必要がある。

 それではまず、買い物をする時に、我々の脳が実際にどう動くのかを見てみることにしよう。

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