「平穏な生活追求仮説」の証明:
経営者は厳しい決断を避けようとする

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競争と監視にさらされていない企業の経営者は、ただ平穏を望み、事なかれ主義に走る――。この説を裏付ける興味深い論文が、日本の研究者によって発表された。筆者らによると、市場からの適度な圧力がない企業は、設備投資やR&Dが少ないことが判明したという。


 競争の激しい市場では、経営者は最善の努力を尽くそうという動機を強く持つ。

 一方、経済学者らは長きにわたり、こう主張してきた。企業は競争がない状態に置かれると、その経営者は自社の利益を最大化する動機がなくなり、代わりに「平穏な生活(quiet life)」を享受したがる可能性があるという。

 同様に、会社のオーナーや株式市場からの監視が十分でない場合も、経営者は思い切った決断や難しい課題への取り組みを避け、平穏な日々を望むようになりうるという。

 はたして、経済学者は正しいのだろうか。経営者は本当に、競争と監視がなければ努力を怠るのか。放っておくと、平穏の追求に走ってしまうのだろうか。

 筆者が先頃発表した論文(東京工業大学の池田直史、渡部翔との共著)では、日本のデータを用いて、この「平穏な生活追求仮説」を実証的に検証している。市場からの規律圧力に対する、経営者の防御的姿勢の度合いを測る代理変数として、我々は「持ち合い株主」という企業所有形態を採用した。これは、企業が近しいビジネス関係にある他社や銀行と、相互に株を持ち合うことである。

 筆者らは、こう考えた。株を持ち合っていると、一方の企業は相手に株主として利益最大化を要求せず、業績不振時でも経営に異を唱えない。なぜなら、それらの行為は、両者のビジネス関係を損ねることにつながるからである。

 株式持ち合いは、経営者が導く企業行動にどう影響するのか。これを検証した結果、次のことが判明した。株式市場からの規律圧力を受けず、守りに入っている経営者は、大規模投資、R&D、事業再編といった難しい決断を避ける。一方、機関投資家と社外取締役に監視されている経営者は、難しい決断をより積極的に下す傾向がある。

 これらを総合すると、我々の研究結果は平穏な生活追求仮説と一致する。競争や監視がなければ、経営者は実際に、厳しい決断を見送るようなのだ。

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