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ITの活用とテレワーク導入が
働き方改革を実現する生産性向上のカギ

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政府が推進する「働き方改革」。関連法案のうち、時間外労働時間の上限規制と同一労働同一賃金については法制化のメドがついた。成果の一方で、生産性向上の視点は抜け落ちたままだ。生産性向上のためのテレワーク導入を唱える慶應義塾大学大学院の鶴光太郎教授に、働き方改革の本質的課題と解決策を聞いた。

ITを活用して「時間当たりの生産性」を高める

――働き方改革の議論は画一的だと指摘されています。働き方改革実行計画以降の一連の動向をどうご覧になりますか。

慶應義塾大学大学院 商学研究科 教授
鶴 光太郎(つるこうたろう)
1984年、東京大学理学部数学科卒業。オックスフォード大学 D.Phil.(経済学博士)。経済企画庁調査局内国調査第一課課長補佐、経済協力開発機構(OECD)経済局エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員、経済産業研究所上席研究員を経て、2012 年より現職。経済産業研究所プログラムディレクターを兼務。内閣府規制改革会議委員(雇用ワーキンググループ座長)(2013~16年)などを歴任。

 長時間労働の抑制と非正規社員の処遇改善は、正規・非正規の双方にとって最も大きな課題であり、罰則付き時間外労働の上限規制の導入と同一労働同一賃金の実施が法制化に向け議論されていることは大いに評価できます。一方で「もやもや感」があるのも事実で、企業の現場や人事担当者からは戸惑いの声も聞こえてきます。

 単純に労働時間を減らすだけでは、そのほかの条件が変わらない限り、企業のアプトプットは減少し、ひいては従業員の所得の減少につながります。労働時間を減らすのであれば、その分生産性を高めてアウトプットが減らないようにする必要があり、生産性向上の視点が実行計画には抜け落ちています。

 加えて、実行計画は重要な問題を取り上げてはいますが、それが働き方改革のすべてではありません。日本の雇用システムはさまざまな問題を抱えており、働き方改革についても、ほかに多くの問題があります。それらがどうお互いに連関し、全体像としてどうなっているのかという視点なしに、対処療法的に解決できる問題ではないのです。

 著書『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版刊、2016年)でも書きましたが、日本の雇用システムの一番の問題は、「無限定正社員システム」にあると私は考えています。職務も勤務地も労働時間もあらかじめ限定されていないところに大きな問題があり、働き方改革の源流をさかのぼると、そこに行きつきます。根源的問題を変えていかない限り、本当の働き方改革は難しいでしょう。

――生産性を高めるために何をすべきですか。

 働き方改革でできることは2つあります。1つは、ITを活用して「時間当たりの生産性」を高めることです。生産労働者は、ラインの生産工程で単位時間においてそれぞれのアウトプット(成果)を計るのは比較的容易です。一方、管理・事務・技術労働者(ホワイトカラー)は、アウトプットそのものが必ずしも明確ではなく、それに費やしたインプット(労働時間)の計測も困難なため、時間当たり生産性を意識することは難しいとされてきました。しかし、ITやHR(ヒューマン・リソース)テクノロジーの活用により、ホワイトカラーのインプットやアウトプットを可視化することが可能になりました。

 簡単な例としては、パソコンのオン・オフ、ウェアラブルデバイスによる従業員の行動データの把握などがあります。アウトプットについては、書類やメールがデジタル化され、クラウドなどで集中管理されるようになりました。これによって、ホワイトカラーの時間当たり生産性を定量的に把握するとともに、業務の棚卸や無駄な業務内容・プロセスの特定と見直しも容易になります。

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