「無秩序の力」を活かせ
――書評『ひらめきを生み出すカオスの法則』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第70回は、フィナンシャルタイムズのシニア・コラムニストとして活躍するティム・ハーフォードのひらめきを生み出すカオスの法則を紹介する。

ケルン・コンサートの名演奏はなぜ生まれたのか

「ケルン・コンサート」と言えば、ジャズ・ピアニスト、キース・ジャレットの伝説的な演奏であり、そのライブアルバムの売上げは3500万枚にも上る。本書はこのケルン・コンサートのエピソードから始まるのだが、実はこのコンサートには大きなアクシデントがあった。運搬されたピアノはジャレットが指定したものではなく、とても小さなピアノで、音階は外れており、黒鍵の一部は鳴らず、ペダルも使い物にならなかった。とても演奏できるような代物ではなかったのだ。なんとか調律したものの、低音部がこもり、高音部が割れてしまうのは直せなかったという。

 そんなありえないピアノを前に演奏を渋っていたジャレットだったが、コンサートプロモーターの熱意にほだされ、コンサートが始まる。そして、この演奏はジャレットの生涯屈指のパフォーマンスとなった。ピアノの状態が悪かったことはむしろプラスに作用した。音の割れる高音部を避け、中音部を多用し、ペダルの効きが悪いのを補うために左手でベースリフを繰り返すという苦肉の策は、結果として、聴衆を恍惚とさせる音楽的効果を生んだのだ。

 本書の著者のハーフォードによれば、この奇跡ともいえる名演奏は、このとんでもないピアノという「無秩序」を受け入れたところから生まれたと言う。きちんと片づけられた机、乱れのないオフィス、完璧なシステム…など、私たちは「整然としたもの」を求めがちであるが、それが行き過ぎていないか、また適度な無秩序を受け入れるメリットを取り逃がしていないか、というのが本書の主張である。ケルン・コンサートだけでなく、キング牧師の有名な演説、“I have a dream.”もマイルス・デイヴィスの「カインド・オブ・ブルー」もアドリブという無秩序から生まれているのだ。

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