「先読み」「引き寄せ」「構え」――
AI導入前に備えておくべき3つの基本

――ローランド・ベルガー代表取締役社長・長島聡

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人間を超える存在になるという脅威論から、SFのような未来が訪れるという楽観論まで、人工知能(AI)の実用化が進む中でさまざまな議論が生まれている。そうした中で企業は、この優れたテクノロジーをどう活用すれば、自社のビジネスを発展させることができるのか。『AI現場力』の著者であり、ローランド・ベルガー代表取締役社長を務める長島聡氏が、その要諦を語る。

AIにできること、できないことを理解する

長島 聡(ながしま・さとし)
ローランド・ベルガー 代表取締役社長
早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、各務記念材料技術研究所助手を経て、ローランド・ベルガーに参画。工学博士。自動車、石油、化学、エネルギーなどの業界を中心として、R&D戦略、営業・マーケティング戦略、ロジスティック戦略、事業・組織戦略など数多くのプロジェクトを手がける。主な著書に、『AI現場力』『日本型インダストリー4.0』(以上、日本経済新聞出版社、2017年、2015年)がある。

編集部(以下色文字):長島さんは、製造業をはじめとする現場のコンサルティングに長年携わってこられました。人工知能(AI)というテクノロジーの登場によって現場が大きな変革にさらされているなか、どのような問題意識をお持ちでしょうか?

長島聡(以下略):ここ数年、AIの話が少しおかしな方向に進んでいるように思えます。人間の仕事を奪うという議論はいまだに盛り上がっていますが、20年後、30年後ならいざしらず、それをいまから話題にして、人々の活力を奪うのはいかがなものでしょうか。それよりも、こんな使い方ができると人間の力を拡張する方向での議論がされるべきだと思います。

 そもそも、AIは機械化と同じことです。機械化が進む過程では、人間だけが働いていた工場に機械が入り、だんだん機械の役割が大きくなって、自動化しようとなりました。いまはその次の段階、AIをどこに入れるかということで、人と機械に加えて、3つ目の選択肢が生まれてきたということだと私は思っています。

 企業の経営者には、AIのエンジニアを雇わなければいけない、研究所をつくらなければいけないと、焦りを募らせている人たちが増えています。しかし、何のためにそれをするのか、何をやりたいのかというスタンスが曖昧な場合も少なくありません。すべてをきっちり決めておく必要はありませんが、ブームに乗り、過度な期待を寄せて、AI研究を始めた企業も少なくないように思えます。

 企業でワークショップを行うと、最近では間違いなくAIの話が出てきます。「AIと対話できたらいいね」とか、「各種センサーのデータを解析して、メンテナンスの要否が瞬時にわかるといいな」などとよく言われるのですが、AIができることとできないこと、実現させるためにお金がかかることとそうでないことなどの区別ができていません。そのため、空回りの議論が多くなっています。

 AIには何ができて、また何ができないと説明されますか?

 現在のAIは、単一の行為の再現や代替には存分に力を発揮できますが、たとえば、複数の回答を組み合わせて一つの答えを導き出すことは困難です。外的要因と相互作用があるものを、いくつかのAIの組み合わせでやろうとする場合、難易度は極めて高くなります。人が扉のすぐ向こう側にいるとき、どんな人がいるかがわからない中で、人にぶつけずにどう扉を開けるかなど、都度状況が変わるものに対処できないんですね。

 最も進んでいるのは画像診断の分野です。検品や検査、医療診断にはすでにかなり活用されています。また、自然言語処理による議事録作成や翻訳の精度も上がっています。ただ、逆に言えば、まだそのレベルだということです。できることとできないことの整理がもっとつくようになると、成功事例がどんどん出てくる、よいサイクルに入れると思います。

 長島さんはAIを活用する際に「顧客価値が起点」であると指摘されています。AIをどう使えば、顧客価値が高まるのでしょうか?

 現状では、人手不足を解消する、作業上のボトルネックを取り除くなど、自分たちが困っていることの解決が中心だと思います。

 たとえば、日本の製造業の現場では、巧みの技術を持つ職人が高齢化でいなくなる現実を何とかしたいという議論などが活発です。熟練技術者は、600を超える環境変数を意識して作業に当たると言われていますが、彼らの持つ巧みの技が暗黙知化しているがゆえに、それがボトルネックになっているケースがたくさんあります。そこで、AIを活用して一部分でも形式知化できないかなどと、現場の見える化を進めている企業は増えてきており、一定の成果を上げています。

 その一方で、顧客の付加価値を高めていく人の活動に貢献することは、まだそれほどできていません。たとえば、コールセンターでお客様を待たせることが多いという課題に対して、ロボットを使って、ある意味、時間を稼いで解決する企業などは見られます。また、小売店の接客にAIを導入して、顧客の興味を惹く例などもあります。ただ、このように、お客様接点の効率化や一部代替は進んでいるものの、人の価値創出への貢献までを実現しているケースは、極めて稀であるのが現実でもあります。

 いずれはやはり、たくさんの情報を巧みに管理して、その中から必要なものを必要なタイミングで提供して人の創造性を刺激するといった、人の価値創造をサポートするAIに目を向けるべきだと考えています。とはいえ、いまの時点では、AIができることを的確に理解し、必要な情報をタイムリーに届けるという存在として徹底することも大切だと思います。

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