Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

テクノロジーを社会のために
ブロックチェーンの技術で、個人情報を
企業から個人の元へ取り戻す

3

――すでに実証実験を行なっているそうですね。

安田 はい。iRespondは「社会的弱者への自己証明型電子身分証明発行プロジェクト」として、タイとミャンマーの国境にいる十数万人の難民に対して、網膜認証を使って本人認証を行なう電子身分証明書を発行しました。

 この結果、例えば医療に関してはこれまでの病歴などの記録を参考に診療できるようになりました。また、これまでのシステムでは、たとえIDがあったとしてもそれを利用する人が本人かどうか確認できないため、偽造されやすいという課題がありましたが、その解決にもつながります。ただ、個人情報を登録することを恐れる人もいるため、登録が進まないという課題も見えてきています。

 将来的には網膜認証とブロックチェーン技術を組み合わせて、電子身分証明書の用途の幅をFinTechやEdTechなどにも広めていきたいです。

世界的なリバース・イノベーションを
起こす可能性も

――この仕組みのメリットは何でしょう?

安田 先ほどお話したように、自分の電子化された個人情報へのアクセスをコントロールできないために起こる悪用などのリスクを減らせることです。今は、クレジットカード会社や大手のECサイトなどの企業が個人情報をすべて持っていて、私たちは自分の個人情報に他人がアクセスするのを承諾せざるを得ませんが、そのような構造を完全にひっくり返すことができるのではないかと考えています。

 同じような考えをいち早く取り入れているのが欧州連合(EU)で、新たな個人情報保護ルールである「EU一般データ保護規則(GDPR)」が2018年5月に施行される予定です。

 GDPRは、企業が持っている個人情報の保持や使用方法に不満があれば、個人が申し立てて使用方法を変えたり削除させたりすることができる法律です。データのEU外への移転も禁止されるほか、EU域外にも適用されるため、世界で最も厳しい個人情報保護の基準として世界中の企業がGDPRへの対応を迫られています。

――個人情報の保護は世界的な流れになるでしょうか。

安田 はい、なると思います。テクノロジーがさらに進化し、かつては実現できなかった個人情報管理・保護が可能になることで「世界的な」実用化が加速されると考えます。企業側も個人情報に対する意識が変わってきていて、大量の個人情報を保有するリスクやコストが、それで享受するメリットに見合っているのか疑問視する声も聞かれ始めました。政府としても、すべての国民のIDを保持、管理するにはかなりのコストがかかります。一個人の中枢を成す個人情報の管理・保護は根本的な人権であるという意識も高まりつつあります。

 先ほどお話した仕組みは、先進国においても社会から取り残された人々を救済するために非常に有益です。発展途上国だけにとどまらず、そこで生まれた技術革新を先進国に導入して世界に普及させるリバース・イノベーションの可能性もあるでしょう。金融・保険・医療分野では個人認証が欠かせず、シェアリングエコノミーが個人情報の共有により成り立っていることを考えると個人情報管理の方法が進化するにつれて企業側もビジネスモデルを適応させる必要性が出てくると考えられます。

次のページ  社会課題の解決を考えることの意味»
Technology 関連記事
Going Digital インタビュー」の最新記事 » Backnumber
世界のエグゼクティブが注目する話題の新シリーズEI Emotional Intelligence  知識から感情的知性の時代へ 待望の日本版創刊
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS