行動経済学の発展と
組織に与えるインパクト

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ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーの「ナッジ理論」は、世界中の組織の行動変革施策に大きく寄与している。HBRにおける行動経済学の代表的伝道者、フランチェスカ・ジーノが、彼の功績を改めて振り返る。


 先日、ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学教授のリチャード・セイラーは、さまざまな分野の研究者に影響を及ぼし、人間の行動に対する我々の考え方を根本から変えてきた。

 彼は「行動経済学の父」と見なされている。行動経済学とは、心理学、判断、意思決定に関する知見を経済学と融合し、人間の行動をいっそう正確に理解しようとする比較的新しい学問分野だ。

 経済学は長い間、他の学問分野とは異なる点があった。「人間の選好は常に明確かつ安定的で、合理的」という前提に依拠し、「人のほぼすべての行動は、容易に説明できる」と信じられてきた点だ。

 ところが、セイラーは1990年代、伝統的な経済理論では説明できない人間行動の変則性について論じ、従来の理論に異を唱え始めた。たとえば、1991年には同僚2人(ダニエル・カーネマンとジャック・クネッチ)と共に『ジャーナル・オブ・エコノミック・パースペクティブス』誌に、そうした変則性に関するコラムを寄稿するようになった。

 彼の数々の業績の1つとして、世界中の公共・民間の組織でしばしば「ナッジ部門」と呼ばれる、行動科学チームができるきっかけをつくったことが挙げられる。2008年にはキャス・サンスティーンとの共著『実践 行動経済学』で、意思決定の環境にわずかな変化を加えれば、人々の行動を「ナッジ」する(肘で軽くつつく、間接的に促す)機会は豊富にあることを示唆した。これは私自身も探求してきたテーマだ。

 ナッジは、政府や企業が重視するあらゆる種類の問題の解決に役立つ。その例をいくつか紹介しよう。

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