時間に敏感な組織は、5つのステップでつくられる

時間優位の競争戦略【第3回】

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企業の組織規模が大きくなると、環境に合わせて俊敏に変化することは難しくなる。外部の変化を感知し、それと同等、あるいはそれ以上のスピードで変化する組織にかわるためには何が必要なのか。最終回では、時間に敏感な組織風土をつくるための5つのステップについて論じていく。
※バックナンバーはこちら→第1回][第2回

変革に必須となるSSTサイクルと時間感度

平井 孝志(ひらい・たかし)
筑波大学大学院 ビジネスサイエンス系 教授
1965年生まれ。東京大学教養学部基礎科学科第一卒業、同大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了。マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA。早稲田大学より博士(学術)。ベイン・アンド・カンパニー、スターバックス、デル、ローランド・ベルガーなどを経て現職。早稲田大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学ビジネススクール特別招聘教授を兼務。主著に、『日本企業の収益不全』(白桃書房)、『本質思考』(東洋経済新報社)。

 前回までは、いまなぜ「時間」が企業の競争優位の構築につながるのか。そして「時間優位の競争戦略」を語る際に欠かせない「変化」について論じてきた。

 今回は、時間優位の構築の方法論ついて議論していく。時間優位は、「備えのタイミング」「進化の速さ」「変革のタイミング」「転身の速さ」の4つ切り口で変化の機会を敏感に捉え、変革を実現していくことによって構築される。それを組織に実装していく上では、SST(感知(Sensing)→捕捉(Seizing)→変革(Transforming))とPDCA双方をうまく連動しつつ回していくことが大事になる。

 PDCAは、企業によって巧拙はあるものの、多かれ少なかれ回っている。なぜなら、企業組織はイレギュラーな業務をできるだけ定型化し、その定型プロセスが生む出す効率を一つの競争優位の源にしているからである。定型プロセスを回すこととPDCAを回すことの親和性は高い。

 ただ、PDCAといっても一括りにはできない。しっかりとしたPDCAは、そのサイクルを通じて効率や生産性が向上していく。つまりPDCAの中で新たな気づきがあり、さらなる改善につながる「進化」が存在する。一方、良くないPDCAは単なる「反復」である。惰性のPDCAからは何も生まれてこない。

 形だけの惰性のPDCAに陥ると、見えていること、分かっていることに基づく計画・行動に力点が移り、組織内論理でものごとが動いてしまう。基本的には同じことを反復するほうが楽なので、このような内なる論理は、変化を嫌い、組織の官僚化を進め、組織の慣性が強まる。そして、PDCAのC(Check)とA(Action)がおろそかになり、結果として「進化」の動きが弱まってしまうのである。さらには、外部の環境変化に対して鈍感になり、SSTの動きも弱めてしまうことになる。

 しかし、環境に合わせてみずから変化することは、持続的競争優位を維持する上で必須要件だ。外部の変化を感知し、それと同等、あるいはそれ以上のスピードで外部との関係性を見直すことが重要である。いま必要なことは、PDCAを回すことを土台としつつ時々何かを感知して変革するのではなく、SSTを土台としながら、その上でしっかりとPDCAを回していくことである。そして、それを支える時間に敏感な組織体質を作っていくことである(図7)

SST・PDCAマトリックス

 変革に不可欠であるSSTの強さ・弱さとPDCAの強さ・弱さを2軸としたSST・PDCAマトリックスを描くと、企業を大きく4つに分類することができる(図8)。

 日本の多くの企業は、Cの「平均的な企業」か、Dの「『恐竜化』した企業」に属するのではないだろうか。

 もちろん中には、規模の拡大を実現し、長い歴史を有していても、Bカテゴリー(SST・PDCAの双方が強い)に留まっている優良企業も存在する。

 たとえば、改善を続けながらも、ハイブリッドなどの非連続な製品を生み出すトヨタ。顧客の潜在ニーズを感知しつつ強い営業組織を作り上げ、高収益を誇るキーエンス。精密小型モーター分野で、目利きを効かせたM&Aと、その事業再生と自社融合を迅速に実施し成長を続ける日本電産。あるいは、厳格なコスト管理を徹底しつつも、ECサイトからクラウドサービスへの展開やリアル店舗ビジネスへの着手といった、常に新しい試みを実施するアマゾンなどである。これまで何度か事例として取り上げた独シーメンスなどもこのBカテゴリーに属するだろう。

 多くの日本企業が属するC、Dのカテゴリーの企業はどうすればBカテゴリー、つまり、環境変化に対しても俊敏で、かつPDCAをしっかりと回せる、しぶとい優良企業に移行できるのか。

 喫緊の課題は、SSTの強化から着手することだ。C→Bへの直接移行は難しい。なぜなら強いPDCAが逆に計画・予定どおりに物事が進むことを後押しし、SST強化を邪魔してしまうからだ。

 それゆえ、一旦、SSTに焦点を当て、SSTを重視する時間に敏感な組織風土を醸成し(PDCAが弱くなっても)、それを新たなPDCAへとつなげていくパス(点線: C→A→B、D→A→B)が必要となる。

 そのためには大きく5つのステップが必要となる。

ステップ(1)「兆し」を捉えるセンシング環境の整備
ステップ(2)組織の問題解決手法の変更
ステップ(3)資源コミットメントと成功事例の創出
ステップ(4)SSTとPDCAの連動と高速回転
ステップ(5)時間に敏感な組織風土の醸成

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