「時間」が企業の勝負を支配する時代

時間優位の競争戦略【第1回】

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時間は、ヒト・モノ・カネ・情報に次ぐ第5の経営資源である。過去には、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)やタイムベース競争など、「時間」にまつわる経営手法や考え方が流行し、経営の効率や生産性を上げることが、競争優位につながることを示した。現在、改めて「時間」という経営資源に注目する必要性が高まっている。しかし、求められているのは、効率や生産性を追求するだけの速さではない。それは「変わる速さ」である。本連載では、この「時間」という切り口に焦点を当て、それに基づく競争優位の構築、つまり「時間優位の競争戦略」について全3回にわたって考える。第2回][第3回

「草食恐竜化」した日本企業

平井 孝志(ひらい・たかし)
筑波大学大学院 ビジネスサイエンス系 教授
1965年生まれ。東京大学教養学部基礎科学科第一卒業、同大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了。マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA。早稲田大学より博士(学術)。ベイン・アンド・カンパニー、スターバックス、デル、ローランド・ベルガーなどを経て現職。早稲田大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学ビジネススクール特別招聘教授を兼務。主著に、『日本企業の収益不全』(白桃書房)、『本質思考』(東洋経済新報社)。

 かつて、ステゴザウルスは尻尾に石が落ちても脳に伝わるまでにしばらく時間がかかると言われていた。この説はどうも間違いだったようだが、恐竜、特に草食恐竜は巨体で反応が鈍いイメージが付きまとう。

 私は、経営コンサルタント時代、多くの日本企業の戦略立案・実行の支援をしてきた。その中で、日本の伝統的な中・大企業は「鈍い草食恐竜」になってしまったと感じることが多々あった。自社のまわりで起こっていることにしばしば鈍感で、かつ、なかなか意思決定ができないのである。結果、戦略転換のタイミングを逸してしまう。

 ある機械メーカーが、戦略転換のためのクロスボーダーM&Aを実行しようとした時のことである。外部からM&Aのノウハウを持つ人材も採用し、検討に着手したところまでは良かった。しかし先に進まない。M&Aに関する検討会議が、組織階層毎に行われ、現場レベルから上位の会議に諮られるたび、もぐら叩きのような論点が出て前に進まないのである。そして、その間、誰も何も決めようとしない。そして、いつの間にかM&Aの本来の目的は横に置かれ、単なる買収価格と手に入れる売上・利益の比較の議論に陥ってしまう。気が付くと1年が経っているのである。

 その間、事業環境は大きく変わり、社内の勢いも変化する。この案件は、自社の製品群を活用する事業そのものの運営、つまりバリューチェーンの川下展開であり、「モノ」から「コト」へのビジネスモデル転換を目指す重要な戦略案件だった。しかし最初からつまずいてしまう。これでは非連続な変化への対応は難しい。

 そして、数年後に聞かれる言葉は、「あ~、あの時こうしていれば・・・」になる。

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