ESG活動のさきがけ、パタゴニアは
大企業を巻き込み、その効果を高める

――パタゴニア環境担当副社長、リック・リッジウェイ

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企業の長期的成長の観点から注目されているESG(環境、社会、ガバナンス)活動や投資。そのさきがけのアウトドア用品企業、パタゴニアは、活動が徹底している。自社だけでなくウォルマート等の大企業を巻き込むことで、ESG活動の効果を高めている。その変遷から直近の活動までを副社長のリック・リッジウェイ氏に聞いた。(構成/嶺竜一)

ビジネスを環境保護のための
ツールとして使う

編集部(以下、色文字):パタゴニアは、ハイアマチュアからプロフェッショナルまでを満足させる高品質のアウトドア用品のブランド企業として知られています。一方で、創業者のイヴォン・シュイナード氏の著書新版 社員をサーフィンに行かせよう―――パタゴニア経営のすべてにもあるように、サステナビリティを全面に掲げ、環境や経済格差などの社会問題について、先進的な取り組みをされていることも有名です。どのような形で始まったのでしょうか。

リック・リッジウェイ(Rick Ridgeway)
1949年生まれ。パタゴニア環境担当副社長。登山家、サーファー、作家、映画監督。77年よりアウトドアプランドKELTY PACK CAMPANYコンサルタントとして25年間、マーケティングおよび商品開発に携わる。78年にアメリカ人で初の無酸素でK2に登頂。1987年に現在世界最大の自然写真のストックフォト&映画エージェンシーAdventure Photo&Filmを創業。2003年にパタゴニアの取締役として入社。2005年より環境担当副社長。

リック・リッジウェイ(以下略):パタゴニアの創立は1970年。創業者イヴォン・シュイナードは、現在もパタゴニアの経営者です。彼はロッククライミングを好む世界的に有名な登山家であり、サーファーであり、鍛冶職人でした。パタゴニアの前身であるシュイナード・イクイップメントという会社は、彼が世界一の山登りの道具を作るために生まれました。

 イヴォンと、ダグ(ダグラス)・トンプキンスと、私は、良きアウトドア仲間でした。ダグ・トンプキンスは、ザ・ノースフェースの創業者です。イヴォンは1970年初期にアウトドアウェアの製造を始めました。そして、ダグとともに南米パタゴニアに遠征し、大きなインスパイアを受けたことにより、アウトドアウェアのブランドをパタゴニアと名付けたのです。

 私たちは冒険家であり、ビジネスマンでした。登山をしたり、サーフィンをしたりすることで、自分たちの作った道具をテストし、改良していました。私たちは自分たちが情熱を傾ける遊びのための道具作りに、すべての力を注いでいたのです。それはまったく矛盾のない仕事でした。

 1970年代、80年代を通じて、地球環境の大きな変化を目にしてきました。山も、海も、汚れ、形が変わり、環境が悪化していきました。海岸線の開発によって波が消え、木材のために森林が伐採され、草原は砂漠に変わっていきました。氷河は年々溶けていき、私が世界で最も好きだったマウントケニアのクライミングルートも消失しました。

 私たちの生きているほんの短い間に、この惑星の地理を変えるような、急激な環境の変化が起こっていることに、私たちはたじろぎ、道義的に何かをしなければならないという気持ちを駆り立てられました。

 そこで私たちは各々が、私たちのビジネスを、環境保護のためのツールとして使っていこうと決めたのです。自分たちの経験から得たことや聞いたこと、考えたことを伝えあい、互いに学びあいました。友人のなかで一番思慮深いのは、ダグ・トンプキンスでした。パタゴニアの面々は、いつもダグから環境の重要性などを多く学びました。

 いま、地球という惑星のあらゆる環境指標は悪化する一方です。気温は上昇し続け、温室効果ガスは増え続け、森林は減り続け、砂漠は広がり続けています。海は酸化し、淡水も汚染されています。そして、生物多様性が失われ、毎年驚くべき数の生物種が絶滅しています。

 パタゴニアの経営方針は、そこから決まっていったのでしょうか。

 その通りです。1990年代初期に、イヴォン・シュイナード率いるパタゴニアは、強い思いを言葉に変え、「ミッションステートメント」に掲げました。それは、「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」ということでした。これは今日でもパタゴニアの意思決定の指針となっています。この要素は3つあります。

 1つ目は、「最高の製品を作ること」です。これこそが私たちの環境のコミットメントの基本です。なぜなら最高の製品とは、最も耐久性のあるものだからです。ジャケットが10年、15年、20年持つということは、惑星に対して最も環境インパクト(=影響)が少ないということです。品質の高さとは、岩や氷にこすりつけられたり、木にひっかけたり、風雨や海水や強い日射しにさらされても、機能と着心地を維持できる、耐久性の高さです。

 2つ目は、「環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える」ことです。これは私たちが責任のあるメーカーとして、原材料の生産から加工、流通、販売、メンテナンス、廃棄、再利用まで含めたサプライチェーンのあらゆるプロセスにおいて、エネルギーの消費量を減らす、温室効果ガスを削減する、水の使用量を減らす、有害物質の汚染を出さない、廃棄物を減らす、といった環境対策をしていくことになります。

 3つ目は、「環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」ことです。パタゴニアはイヴォン・シュイナードとその家族がオーナーのファミリー企業ですが、事業の成功を彼らの富を蓄積するために使うということは全くしていません。ビジネスで成功した成果としてのお金を、環境危機への答えを模索し、実行するために、また、社会正義を実行するために積極的に使っています。

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