Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

新規事業の成功確率は5%程度
突出した人材の失敗を許容できるか

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デジタル技術の進展に伴い、企業経営を取り巻く環境は加速度的に変化している。変化に対応し、持続的成長を遂げるには、イノベーションの活用が不可欠だ。しかし、オープンイノベーションをはじめ、リーンスタートアップ、デザイン思考などの取り組みが活発に行われているにもかかわらず、成果に結びつけることができている企業は多くない。何故、イノベーションは進まないのか。その解決策を、明治大学社会イノベーション・デザイン研究所副所長も務める阪井和男教授に聞いた。

多様性を組織文化として保持できるか

――日本企業において、イノベーションが進まないのは何故でしょうか。

明治大学法学部 専任教授
阪井和男(さかいかずお)
1977年、東京理科大学理学部物理学科卒業。1979年、同大学院理学研究科修士課程物理学専攻修了。1985年、同大学院理学研究科博士課程理学専攻退学。1987年、理学博士取得。サイエンスライターを経て、1990年、明治大学法学部専任講師、1993年、同大学同学部助教授。1998年より現職。明治大学サービス創新研究所所長、明治大学社会イノベーション・デザイン研究所副所長、ドラッカー学会理事(学術担当)なども務める。

 同調圧力が強いという組織の特徴が大きな阻害要因になっていると思います。2004年12月号の『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』(本誌は2004年9月号に掲載)に「学際的コラボレーションのジレンマ」という興味深い論文がありました。米国のリー・フレミングという学者が1万7000件余りの特許を調査し、「イノベーションの価値」と「メンバーの専門領域の類似性」の2軸でグラフを作成しました。メンバーの類似性が高ければ高いほど、イノベーションの価値は中程度に収束し、類似性が低くなるほど、イノベーションの価値は分散して、高いものと低いものの両方に分かれます。

 この結果をライフルの思考実験に当てはめて考えると、メンバーの類似性が高い状態は、「信頼性は高いが妥当性が低いライフル」に、類似性が低い状態は「信頼性は低いが妥当性が高いライフル」に例えられます。一般的には、前者の的を外しても、外れた位置が小さくまとまっているほうが“よいライフル”とされます。照準を調整すれば、外れた位置を的の真ん中に持ってくることが可能だと考えられるからです。イノベーションの場合も、類似性の高いグループで確実な成果を上げるほうがいいと考えられます。その価値を高めていけばいいだけの話だからです。

 ところが、残念ながら、照準を合わせるというライフルであれば簡単なことが、企業や組織のなかでは誰もどうすればよいのかわかりません。妥当性を上げることが不可能であれば、バラバラにたくさん撃って、まれに的の真ん中に命中するのを狙うしかないのです。このことは、多様性が重要であることを本質的に意味しています。多様性を組織文化として保持できるかどうかは重要な問題です。

 多様性というのは厄介で、自分のお気に入りを集めたのでは多様性は生まれません。絶対に許せない、気に入らない人材をいかに自分のまわりに抱えて、活かすことができるか、すなわちマネジメントの問題でもあります。質の高いマネジメントができない限り、イノベーションを起こすことは難しいでしょう。

――人事・採用の観点から、多様性の推進を掲げる企業は増えていますが、まだ不十分ということでしょうか。

 企業が入社試験を行い、成績の優秀な学生だけを採用することは、ある価値基準で人材を単一化するのと同じです。複数の価値基準で、それぞれにおいて突出した人材を採用すべきです。ですが評価軸をたくさん持ったとしても、総合的な判断を下して平均値をとれば、多様性のある人材は採用できないでしょう。

 さまざまな価値基準のなかで、10~20%の幅を持たせて、評価をしない部分を持つことも重要です。住友3Mやグーグルなどの10%ルールがそうです。勤務時間のうち10%は業務に直結しない、ほかのことに自由に使っていいというルールは、一つの仕事に集中し続けるだけでなく、それ以外の時間を持つことで、多様性を取り込むのに役立っています。そう考えると、多くの日本企業がやっていることは、反対のことばかりではないでしょうか。

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