運頼みのイノベーションに終止符を打つ
――書評『ジョブ理論』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第60回はハーバード・ビジネス・スクール教授クレイトン M. クリステンセンによるジョブ理論を紹介する。

顧客の「ジョブ」は何か

 マーケティングの大家であるセオドア・レビットが、「消費者は四分の一径のドリルを買いたいのではない。彼らがほしいのは四分の一の穴だ」と学生たちに教えたエピソードはあまりにも有名である。誰もがこの知見に納得するだろうが、いざ自社の製品・サービスを目の前にすると、このことは忘れ去られがちだ。

 本書の冒頭でも、興味深いエピソードが紹介されている。「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか」という課題を解決するために、ミルクシェイクを買う典型的なプロファイルに合致する人を呼び止めて、質問調査を行ったという。味を濃く?より固く?など、潜在的な購入者層の好みに合わせたシェイクに改良したが、このシェイクの購入数はまったく伸びなかった。

 クリステンセンら調査チームは、まったく異なる角度からこの問題に取り組んだ。「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを“雇用”させたのか」。この視点から見えてきたのは、「朝の通勤のあいだ、目を覚まさせていてくれて、時間をつぶさせてほしい」という顧客のジョブだった。

 しかし、同じ人物でも、いつも同じジョブのためにミルクシェイクを購入するわけではない。たとえば、子どもと店を訪れた場合に、なぜミルクシェイクを買うのか。親は、子どもに何度も何度も「それはだめ」とたしなめる自分にほとほと嫌気が差している。そこで、子どもたちをなだめ、また愛情深い親であると自分自身を納得させる道具として、ミルクシェイクを選んでいたのである。

 ドリルにもミルクシェイクにも共通して言えるのは、セグメンテーションからは、顧客のニーズは見つけられないということだろう。シェイクを良く買うのは、「30代男性、家族構成は…」と顧客データ並べてみて、その層にあわせた改善策を見つけることが正しい方向性ではない。そもそも彼らはシェイクが飲みたかったから店に出向いたわけではないのだ。

 顧客のジョブから見えてくるのは、ミルクシェイクのライバルが、ある時は昼食までのお腹を満たせるバナナやドーナツなどの軽食であり、またある時は子どもを喜ばせるおもちゃだということだ。ジョブを中心に考えると、企業が考えるべき改善策は、まったく異なるものになる。

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