日本企業に潜む衰退メカニズムとその駆動防止策
――書評『衰退の法則』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第59回は小城武彦氏による衰退の法則――日本企業を蝕むサイレントキラーの正体を紹介する。

事業環境が悪化すると
牙をむくサイレントキラー

「破綻する日本企業には、類似点が多いのではないか」。著者は2005、06年頃、産業再生機構に勤務して、経営破綻した企業の再生に携わり、同僚と議論する中で、こう考えた。この問題意識を端緒に研究し、博士論文を書いた。それをビジネスパーソン向けに著し直したのが本書である。

 破綻する日本企業には共通して、衰退メカニズムが駆動している。このメカニズムは平時には問題として顕在化しないが、事業環境が悪化する有事となると、牙をむき、企業を経営破綻に追い込むサイレントキラー(自覚症状がないまま進行する悪性の病気)の性質を持つ、と著者は言う。これが、サブタイトルの所以である。

 本書の特徴は、破綻企業とそれとは対照的な優良企業の計13社を対象に詳細な事例研究を行い、「学術的な方法論に則って」、分析して、結論を導いていることにある。その他の類書のような経験則や主観に基づくものではないため、批判も学術的に行われるだろうし、本書を基に次の研究が誘発されると見込まれる。

 分析手法には、1990年代以降に発展を続ける「文化心理学」という新しい学問の知見を活用している。これにより、上記の衰退メカニズムは、他の日本企業でも駆動しやすい傾向にあることを明かしている。その衰退メカニズムは、次のように説明されている。

 経営陣の意思決定プロセスと、経営陣の形成プロセスは、カッコ内の特徴を備えて、サイクルを形成している。①経営陣の意思決定プロセス(予定調和的色彩の強さ)、②ミドルによる社内調整プロセス(事前調整の重視と妥協色の強さ)、③ミドルの出世条件・経営陣登用プロセス(●幹部の意向の忖度・社内調整力、派閥などへの所属、「出すぎず、気が利く」、●恣意性や政治性の強さ)、④経営陣の資質(●強い社内政治力、●低い経営リテラシー・実務能力)。これらが①+②→③→④→①+②というサイクルになっている(正確には本書p107参照されたい)

 このサイクルは、経営が順調な時は特に大きな問題とならないが、経済環境が変わり、対策や新たな戦略を考え、実行する必要が生じる局面(つまり有事)では大きな問題となる。必要な打ち手を実行できる経営陣が不在で、改善を促すプロセスもないからである。

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