日本企業の問題に共通する病根は
「個人の未分化」にある

同志社大学政策学部教授の太田肇氏に聞く

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企業の不祥事、長時間残業、低い生産性、イノベーションの低迷など、今日の日本企業が抱える課題には、共通する病根として「個人の未分化」がある──近著なぜ日本企業は勝てなくなったのか: 個を活かす「分化」の組織論で、こう主張する同志社大学教授の太田肇氏に、その真意と問題の解決策を聞いた。(構成/編集部・大坪亮)


編集部(以下、色文字):本書の大要は、「日本企業が今、抱える多くの諸課題には、共通する『病根』があり、それは個人が組織や集団から『分化』されていないことである」ということだと思いますが、具体的には、どういうことですか。

太田 肇
同志社大学政策学部教授
1954年兵庫県生まれ。同志社大学政策学部教授。同大学院総合政策科学研究科教授。京都大学経済学博士。専門は組織論、人的資源管理論。『個人を幸福にしない日本の組織』(新潮社)、『最強のモチベーション術』(日本実業出版社)、『組織を強くする人材活用戦略』(日本経済新聞出版社)、『承認欲求』(東洋経済新報社)、『公務員革命』(ちくま新書)など著書多数。

太田肇氏(以下略):分化とは、個人が組織や集団から制度的、物理的、あるいは認識的に分別されていることであり、未分化とは逆に個人が組織や集団のなかに溶け込み、埋没してしまっている状態を表します。

 個人の分化には程度の差があり、企業から独立するなどの「強い分化」から、職場での仕事の分担を明確にするなどの「弱い分化」、その中間にあたる社内FAやのれん分けなどがあります。

 こうした個人の分化が日本では弱く、そのことが、最近の企業や役所の不祥事、長時間残業、低い生産性、イノベーションの低迷などの根本原因になっていると私は考えます。

 例えば、東京・豊洲市場の建物が計画通りに汚染防止の盛り土が行われていない問題が発覚しましたが、現状では、誰がそれを決定したかがわかりません。実際は、処理しないことが決定されたから、現時点で未処理な状態なので、誰かがそれを決定しているのです。しかし、誰が決めたか分からない。真相は不明ですが、意思決定機関や役所の雰囲気の中で、なんとなく計画通りに処理しなくてよいということになった可能性があります。こうしたことは、日本の大企業でもしばしば起こっていると思います。

 欧米企業では組織のメンバー一人ひとりの権限や責任、仕事内容などが明確に決められていますが、日本の企業や役所ではこれらの線引きがあいまいで、大事な意思決定も、非公式な話し合いやその場の空気などで実質的に決められていることが多いのです。

 忖度という言葉が注目を集めていますが、部下は直接命じられなくても、上司の立場や意向を忖度して行動することがしばしばあります。自分の所属する事業部に高い利益目標を課されていて、事業部長の将来がその達成にかかっているとき、部下は時にはルールを破ったりしてでも、目標達成に協力したりします。そして、その事実を上司が知ったとしても、知らぬふりをするなど、無責任が連鎖していきます。

 個人が分化していれば、後に問題が起きた時に、誰が決断したのか、責任の所在がはっきりするものです。

 過剰労働とは、どのように関係がありますか。

 従業員の側から考えると、個人が分化されていないので、定時までに自分の仕事を終えて帰りたいと思っても、チームや組織全体の仕事が終わらないと帰りづらいというのが実情です。

 自分が一生懸命、スピーディに仕事をしても、他の人がノロノロと働くようだと、その分のカバーでより多く仕事をすることになり、くたびれ儲けということになります。多くの人がそのように考えると、組織全体の生産性は高まりようがなく、労働時間が長くなるのです。

 これに対して、個人が分化していれば、限られた時間を有効に使おうと考え、効率よく仕事をしようというモチベーションが働きます。仕事のやり方を自分なりに工夫しようとして、生産性が上がります。

 随分前に、企業の競争力を高めようとして、成果主義制度を導入する企業が増えましたが、これも個人が未分化ですと、機能しません。個々人の仕事がきちんと分かれていなければ、個々の成果は測れるはずもないからです。

 分化されると、個人が仕事の仕方やペースを自己管理しやすくなります。フレックスタイム制度やテレワークなども使い勝手がよくなります。育児や介護などと仕事の両立もやりやすくなります。

 働き方改革を推進する上で、課題とされてきたことの多くが、個人の未分化に起因していると思うのです。

 もし未分化の現状のままで、残業時間を制限すると、多くの日本企業は赤字に陥ると思います。現在のアウトプットは、残業が多いインプットで実現しています。つまり、生産性が現状のままで、残業を含めたインプットを制限すると、アウトプットが減ります。日本全体でそうなると、経済全体が立ち行かなくなります。

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