VCsの会話記録が明らかにした、
女性起業家への偏見と差別

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ベンチャーキャピタリストが投資対象を選ぶ際、ビジネスモデルの革新性や成長性ではなく、「男性であること」を重視しているとしたら、どう思うだろうか。筆者らが、政府系ベンチャーキャピタルの意思決定会議に同席して会話を記録し、男性と女性の起業家に対する評価を比較したところ、女性起業家は特にステレオタイプで判断される傾向が見て取れた。


 ベンチャーキャピタリスト(VCs)が投資案件を評価する際、その起案者である起業家を表現する言葉が、投資対象者と投資する理由を見極めるうえで、密かに重要な役割を果たすことが多い。ただし、そうした言葉は密室で発せられるため、VCsの本音をつかむのは難しい。

 我々は、スウェーデンで政府系ベンチャーキャピタルの意思決定会議に参加する機会を得て、2年間にわたりVCsが使う言葉を観察することができた。その中で1点、際だった特徴があった。それは、男性と女性の起業家を表現する言葉が、根本的に異なっていたのだ。この違いは、資金を求める起業家――ひいては社会全体――に深刻な影響を及ぼしている。

 我々の調査結果を述べる前に、起業家にとって最も大切な資金源の1つである、政府系ベンチャーキャピタリストの背景について簡単に説明しよう。

 欧州連合(EU)では、政府系VCsが2007年から2013年にかけて、中小企業のイノベーションと成長への融資金として36億2100万ユーロを割り当てた。世界各国の政府系ベンチャーキャピタルは、銀行では融資が認められないケースでもリスクを引き受けられるため、資金の大きな不足を補うと同時に、イノベーションと成長を後押しする重要な存在だ。たとえば製品とマーケット・ポテンシャルの評価において不確実性が高い場合、政府系VCsの意思決定を大きく左右するのは、起業家自身のポテンシャルに対する評価である。

 スウェーデンでは、国内の約3分の1の企業を女性が所有、経営している。では、政府資金も同じ割合で提供されているかというと、そうではない。事実、女性経営者が運営する企業が助成を受けている資金は13%から18%にすぎず、残りは男性経営者の企業に提供されているのだ。

 ここで、我々の調査に話を戻そう。

 我々は2009年から2010年にかけて、政府系VCの意思決定会議に同席し、資金提供を求めている起業家に関する会話を傍聴する機会を得た。当初の調査目的は、会話における性差の実態を調べることではなく、資金提供の意思決定を検証し、グループの作業プロセスの改善を促すことだった。ところが、データをまとめてみると、会話が性別によって明らかに違うと判明したため、より詳しい調査をすることにした。

 我々の調査では、合計125件のベンチャー企業の申請を対象に、会議室で対面によって行われた、資金提供を最終決定するディスカッションを観察した。このうち、99件(79%)が男性起業家による申請で、26件(21%)が女性企業によるものだった。観察した政府系ベンチャーキャピタリストのグループは合計7人のメンバーで構成されており、女性2人、男性5人だった。観察内容は、意思決定に要した時間が合計36時間、記録した会話を書き起こした文書は合計210ページに及んだ。データをコード化した後、表現をスウェーデン語から英語に翻訳した。正確性を期すべく、我々の調査グループ内で表現をスウェーデン語に翻訳し直した。この過程で品質を管理するために、言語の専門家も起用した。

 会話を分析する際には、起業家のポテンシャルがどんな言葉で表現され、融資する側がどのように男性と女性について一般的に言及しているかに注目した。我々は、起業家の特徴を述べる際に用いられた言葉や文、外見や服装に関するコメント、そして意思決定の会話や表現におけるやり取り全般を見極めた。こうした方法は、テーマの輪郭を定め、集計するための土台となり、いくつか共通の推論を導き出す土台ともなった。

 融資する側であるVCsは、一部の例外を除いて、女性に対してステレオタイプなイメージを表す言葉を使っていた。いずれの女性も起業家に重要な資質と対極にある性質を持つとされ、その信用性や信頼性、経験、知識に疑義を呈された。

 一方、男性起業家を評価する際には、起業家としてのポテンシャルを強調するようなステレオタイプが多かった。男性起業家は総じて自己主張が強く、イノベーティブかつ有能で、経験や知識も兼ね備えており、人脈も豊富だと表現されたのである。

 我々は調査結果を基に男女の起業家のペルソナを作成し、ベンチャーキャピタリストによる発言を下の表にまとめた。

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