Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

AIシンドロームへの正しい処方箋
競争優位につながるAI活用とは

5

先行事例に見られる工夫(2)

カスタマー・インティマシー企業の例:
通信業界における顧客接点AIの取り組み

 某欧州通信事業者では、顧客からの問い合わせ対応にAIを活用している。問い合わせページに入力された質問に対して、AIエージェントが自然な対話形式で対応し、関連するページやビデオへと誘導する。このAIによって問い合わせの8割以上が解決され、コールセンターへのコール数は大きく削減された。さらに優秀なオペレーターと同じように、顧客の問い合わせや契約状況に応じたサービスレコメンドにより、新規申し込み3%向上、アップセル・クロスセル7%向上という成果まで創出している。*9

出典:アクセンチュア

 1点目の「目指す姿(ゴール・シナリオ)」については、通信サービスのコモデティ化に対する強い課題認識が関係している。通信市場が成熟化・飽和し、通信エリアや携帯端末やサービスによる差別化が困難になるなか、顧客接点における体験価値の向上をゴールに据え、AIを活用した顧客応対高度化の取り組みにいち早く着手した好例といえる。

 2点目の「当面の成果(クイック・ウィン)」については、コールセンターの負荷軽減を据えている。市場の成熟化・飽和のなかでサービスが多様化し、顧客応対難易度が増しており、人材育成に時間がかかる一方で、賃金水準は必ずしも高くないことから応募者が少なく、クレーム対応へのストレスなども相まって離職率が高止まりしている。同社はこの課題に着眼し、コールセンターの人手不足対策(コール数の低減)とい文脈でAI化のトライアルに踏み出している。

 3点目の「技術進歩への備え」はどうだろうか? チャットでの問い合わせ対応は比較的汎用性が高く、他社がより優れたAIを開発できる余地がある。本事例においては、単なるQ&A対応は将来的な技術の置き換えを想定する一方で、サービスレコメンドにおいては自社固有の累積経験を構築している。具体的には、顧客の契約・利用状況といった固有データを活用し、試行錯誤を通じて成功率・効果の高いターゲット・提案内容を見極めており、このプロセス高度化に競合優位性を見出している。

 こうした顧客接点AIの取り組みは、通信業界・金融業界が牽引している。金融業界では、コールセンターで音声での問い合わせをAIが解釈し、回答候補を電話オペレーターに提示する取り組みも見られている。今後は顧客情報を活用したリコメンドの取り組みが進むことが想定される。

プロダクト・リーダー企業の例:
医薬業界における研究開発AIの取り組み

 研究開発におけるAI活用については、医薬業界の取り組みが先行している。国内で始動した「AI創薬プロジェクト」には、武田薬品工業、富士フイルムなどの製薬大手をはじめ、富士通やNEC、海外大手の製薬会社など約50社と理化学研究所や京都大学病院が参加し、AIによる新薬の創薬を進めている。このプロジェクトでは、さまざまな学術論文や臨床データから新薬候補探しを行うほか、副作用のおそれがある新薬候補をあらかじめ除く、高額な薬剤と有効性が同じ安価薬剤の開発といった効果を狙ったAI開発が行われる。*10

出典:アクセンチュア

「目指す姿(ゴール・シナリオ)」については明確であり、医薬業界において新薬をつくるのにかかる10年以上の期間、1000億円以上の費用、多くの試行錯誤による無駄を削減することが競争優位に直結する。

「当面の成果(クイック・ウィン)」はどうだろうか? AI創薬プロジェクトでは、一企業ではともすれば負担困難な研究開発投資を軽減するため、産官学連携という形で国の予算を活用している点が興味深い。日本のAI技術を用いた具体成果創出、または、医療費抑制への寄与、という喫緊の課題に対しても貢献するストーリーを加えることで、大きなコンセンサスをつくって資金を引き出している。

「技術進歩への備え」に関していえば、学術論文のデータはオープンであるが、理研や京大病院が持つ臨床データはクローズされており、外部プレーヤーのAI育成の障壁となる。ただし、参加する製薬企業間では差別化が効かない構造となるため、プロジェクトが成功した際の参加企業間での利益配分ルールが必要となろう。加えて、IT企業を巻き込み、技術の目利きができる枠組みとしているが、一般論としては、参加企業の技術を優先して使うということが前提条件として課される場合には、より優れた技術の乗り換えが遅れるデメリットに配慮する必要がある。

*9 【図表4】欧州通信事業者の顧客接点AI *10 【図表5】AI創薬プロジェクト」の概要

 

次のページ  自社の価値を生むAI活用領域を見極めよ!»
Special Topics PR
Business Model 関連記事
Going Digital オピニオン」の最新記事 » Backnumber
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS