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AIシンドロームへの正しい処方箋
競争優位につながるAI活用とは

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先行事例に見られる工夫(1)

 ここまでAI推進のための3つの検討ポイントと、目指す姿(ゴール・シナリオ)を考えるうえでの競争優位構築の考え方を論じてきたが、本章では複数業界における先行事例をもとに、オペレーショナル・エクセレンス、カスタマー・インティマシー、プロダクト・リーダーそれぞれを志向する企業達には、3つの検討ポイントにどのような工夫が見られるかをご紹介したい。

オペレーショナル・エクセレンス企業の例:
小売業界における需要予測AIの取り組み

 データを活用して、業務効率を上げる取り組みは小売業が先行している。米ウォルマートでは、Data Cafeと呼ばれるデータ分析基盤を業務に組み込み、販売機会ロス・在庫リスクを最小化している。Data Cafeは、2万店におよぶ店舗の業務データに加え、購買行動(来店、Web/SNS)、さらには気象、経済、ガソリン価格などを統合した分析基盤を持ち、売上げ下落の要因特定、季節性商品の販売促進、といった判断&解決策提示を20分ほどで実施することができる*7

出典:アクセンチュア

 こうしたデータ活用の延長線上に、本格的なAI化が想定される。同社はインキュベーション機能である「Store No.8」を立ち上げ、人工知能を含む先端技術(ロボット工学、VR/ARおよび機械学習・深層学習)の活用強化を図っている。

 米ウォルマートにおけるデジタル化・AI活用の取り組みは、前述の3つの検討ポイントに、どのような答を出しているのだろうか?

 1点目、「目指す姿(ゴール・シナリオ)」については、Amazonなどネット小売業の躍進への対抗であり、トップ自らデジタル化・AI化が事業の競争優位にとって必須であることを強く発信している点*8が特徴的である。こうした発信は、「できることからやるアプローチ」に回帰することを防ぎ、経営の優先度・重要度が高いまま取り組みが推進されることに強く寄与している。

 また、2点目の「当面の成果」についてはどうだろうか? データを活用したオペレーション効率化は、業務の標準化・自動化を伴う。これは競争優位に向けた布石であると同時に、店舗スタッフの負担軽減・スキル向上にも強く寄与する。小売業全体が人材の流動性が高い業界であることから、負担軽減、スキル向上、人材の定着化といった文脈と重ねることで、取り組みの意義が補完・強化されている。

 3点目の「技術進歩への備え」であるが、小売業におけるデジタル化・AI化は、自社・顧客固有のオペレーションデータ(購買履歴、販売傾向、店舗在庫、物流状況、生産計画など)が用いられるため、外部プレーヤーにとっての参入障壁をつくりやすい。またウォルマートのケースでは、2010年以降IT企業群を相次いで傘下に収め「ウォルマート・ラボ」としてエンジニア集団を組成し、さらには新技術に特化したインキュベーター機能(Store No8)も立ち上げ、技術を使う/目利きする体制を整えている点も注目に値する。

*7 【図表3】米ウォルマート Data Cafe
*8 “We're transforming to become more of a digital enterprise” 17年5月 ウォルマート CEO Doug McMillon (1Q業績発表)

 

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