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AIシンドロームへの正しい処方箋
競争優位につながるAI活用とは

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「事業の競争優位」とAIの関係性

 事業の競争優位を目的としてAIを議論する際には、経営の理論を検討の切り口とするのが有益である。いくつかのAI検討の先行事例を見ると、「3つの価値基準(トレーシーとウィアセーマ)」*5、すなわち、オペレーショナル・エクセレンス、カスタマー・インティマシー、プロダクト・リーダーのそれぞれごとに、AIによる競争優位のつくり方がある、と考えるとわかりやすい。

オペレーショナル・エクセレンス企業:
自社データの拡大により、意思決定精度・速度を向上

「オペレーショナル・エクセレンス」企業は、無駄をそぎ落としたオペレーションによって、最適な価格、高いスピードで製品・サービスを提供する。このタイプの企業は一貫性のある標準プロセスを定め、データを素早く収集し、中央集権的に管理する。

 データが整備され、一元管理されているケースにおいては、AIの持つ多変量下の最適解算出能力の恩恵を享受することができる。グローバルで標準化されたサプライチェーンなどのプロセスは、意思決定精度のわずかな上昇が大きな効率化に直結する。

 オペレーション・エクセレンス企業における競争優位のつくり方とは、データ取得範囲を拡大し、AIによる意思決定に迅速に連動できる業務プロセスを構築することで、精度向上の恩恵を最大化することである。

カスタマー・インティマシー企業:
顧客接点AIの早期投入・育成

「カスタマー・インティマシー」企業は、顧客に対して最良の総合的な解決策を提供する。このタイプの企業は、強くて長い関係性構築のために、顧客に密着している社員に意思決定権限を委譲し、製品・サービスの売上げ・引き合いといった結果指標のみならず、「顧客との接触」や「顧客が解決したいことの発見」といった先行指標を重視する。

 顧客理解を強みにする企業にとって、「高頻度のカスタマイゼーション」「24時間対応」「(一定ルール化では)人を上回る理解力」というAIの特性は、新しい顧客接点としての可能性を秘めている。

 カスタマー・インティマシー企業における競争優位のつくり方とは、顧客接点としてAIを早期に配置し、他社より先に学習させた「かゆいところに手が届く」サービスを提供し、自社顧客を囲い込むことである。

プロダクト・リーダー企業:
バーチャル試行による高速R&D、AI搭載プロダクトの開発

「プロダクト・リーダー」企業は、最良の製品・サービスを提供する。このタイプの企業は、マーケット調査・製品開発に経営リソースを集中し、アイデアから商品化までのスピードを重視することによって、次々と魅力的な製品・サービスを市場に投入する。

 前述の2タイプと比べると、時間を要すると想定されるが、AIの発展は2つの側面でインパクトを与える可能性がある。

 1つはR&Dである。開発段階での実験・試験の成功確率がボトルネックとなっている企業は多い。現在、論文や過去の実験結果など膨大なデータをAIに解析させ、人間では解釈できない試行条件(Input)・試行結果(Output)のメカニズムをモデル化する取り組みが見られるが、こうしたモデルを用いてバーチャルな世界で試行回数を高めることで、R&D期間自体を抜本的に短縮することができる。

 もう1つは、製品自体にAIを搭載することである。わかりやすい例は自動運転であるが、従来人間が担ってきた運転時の判断・操作がAIに置き換わることにより、製品の価値が「運転性能」から「移動体験」自体にシフトする。

 プロダクト・リーダー企業における競争優位のつくり方とは、AIによるR&D改革と、AI搭載プロダクトによる顧客価値の再定義である。

 実際には、企業の価値基準を1つに絞り切れるものではないが、オペレーショナル・エクセレンス、カスタマー・インティマシー、プロダクト・リーダーそれぞれにおいてAIによる競争優位性のつくり方は異なる*6。少なくとも1つ、自社にとって「投資してでも実現すべきAI」の姿を見出すことが重要となる。

出典:アクセンチュア

*5 Treacy, M., & Wiersema, F. D. (1995). The discipline of market leaders: Choose your customers, narrow your focus, dominate your market. Reading, Mass: Addison-Wesley Pub. Co.
*6 【図表2】オペレーション・エクセレンス企業、カスタマー・インティマシー企業、プロダクト・リーダー企業のそれぞれごとに、AIによる競争優位のつくり方があり、取り組みにあたっては自社の事業特性・コアコンピタンスの見極めが必要不可欠。

 

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