地政学リスクの増大にどう対処するか

いま企業に外交政策が必要な理由

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英国のEU離脱やISILの活動、さらには北朝鮮のミサイル発射など、国際情勢が不安定化する中、企業が地政学リスクに注目し、対応する必要性が高まっている。これまでは政治的に中立的な立場を取ってきた多国籍企業も、国際情勢を見極め、政治的・外交的な戦略を取り入れていかなければならないというのが現実である。地政学的デューディリジェンスに取り組み、対象地域のリスク評価を徹底して行うこと、自国の外交政策を超えた自社の企業外交を打ち立て、グローバルな評判を築くことである。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2017年8月号より、1週間の期間限定でお届けする。

国際情勢の不安定化と
多国籍企業

 2014年2月、ロシアはウクライナのクリミア半島に侵攻し、翌月にはクリミアの併合を発表した。この突然の行動は、欧州においてここ数十年間では初めての大きな戦略上の危機が始まったことを意味しており、ビジネスリーダーにとっても警鐘を鳴らすものとなった。

 危機が明らかになる中、イングランド銀行は企業幹部のシステミックリスクに対する考え方を調査し、6月に注目すべき結果を公表した。調査対象者の57%が、自社の直面する最大の課題として地政学リスクを挙げたのである。前年はわずか13%だった。同行のその後の調査でも、サイバー攻撃、金融破綻、さらには景気低迷をも上回り、地政学リスクが常に最大の課題に挙げられた。

 地政学が再び脚光を浴びている。最近の英国EU離脱の決定がその好例だ。それは英国とEUの関係だけでなく、EUの今後のあり方そのものにも大きな影響を与えるだろう。

 地政学の復活は欧州に限らない。自信を深めた中国は、東シナ海や南シナ海で領有権を主張するという行動を起こしているし、中東ではイラク・レバントのイスラム国(ISIL)が勢いを強め、カリフを名乗ったことで、いくつかの国の領土が脅かされている。アフリカでは、ISILがリビアに進出したほか、西アフリカにおけるその他のテロリストグループの活動もあって、広大な領土の統治がさらに不安定化している。アフリカと中南米では内政も安定していないケースが多い。

 こうした不安定化に加え、どこかの地域で現状が脅かされたとしても、米国が介入するかどうかはもはや定かではない。「世界の警察」たる国が明らかではなくなり、「ネイバーフッドウォッチ」(neighborhood watch:近隣地域による監視)の仕組みもほぼ効果がないうえ、既存のルールに異を唱えようとする自警団のような国家・組織が増加するなど、世界のあちこちが安定を失っている感がある。世界のいかなる地域で事業展開する企業も、絶妙なパワーバランスや確かな約束──超大国による外交政策支援──によって戦略的現状維持が保たれると期待することはできない。

 こうした新たな現実の中で成功を収めるのは、国際問題に関する専門知識をオペレーションの中心に据え、企業の外交政策とでもいうべきものを採用する多国籍企業である。そのような政策には2つの目標がある。1つは、効果的な「企業外交」を通じて国際環境下の事業推進能力を高めること。もう一つは、注意深い「地政学的デューディリジェンス」を通じて、あらゆる場面での成功を確保することである。

 多国籍企業が置かれた環境は多種多様で、関わる産業も幅広い。しかし、企業の外交政策を成功させるには、共通の原則がいくつかある。その原則に従えば、競争上の新たな強みを得ることができる。

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