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ICTで「暗黙知」を「形式知」に
農業こそが21世紀の日本の成長産業

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IoT、AI、ビッグデータなどの先端技術の活用は、ものづくり分野から普及し、昨今は金融と結びついて「フィンテック」が注目され、さらに農業分野と融合して「アグリテック」へと広がりを見せている。国内では、政府関係府省がイニシアティブをとる形で、農業関連情報の整備と基盤の構築が進んでいる。データの利活用が伝統産業である農業にもたらすインパクトとは何か。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室長代理/副政府CIOも務める慶應義塾大学の神成淳司准教授に伺った。

データの標準化、情報基盤の整備が進む農業ICT

――農業と先端技術が融合した「アグリテック」が世界的に広がっていますが、国内においては、農業はIT化が最も遅れている産業分野ともいわれています。ICT活用の現状について伺います。

神成 淳司(しんじょうあつし)
慶應義塾大学 環境情報学部 准教授
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室長代理/副政府CIO
1996年、慶應義塾大学政策メディア研究科修士課程修了。2004年、岐阜大学大学院工学研究科後期博士課程修了、博士(工学)。2007年、慶應義塾大学環境情報学部専任講師、2010年より現職。同大学医学部准教授(兼担)。2014年より内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室長代理/副政府CIOを併任し、政府のIT総合戦略や農業情報創成・流通促進戦略、農業標準化ガイドラインなどの政府横断的な情報政策全般に関わる。

 農業におけるICTは、主に生産管理の効率化の手段として使われ、多くの農業ICTシステムが提供されていますが、その活用は一部の先進的な農家に留まり、まだまだ一般的ではありません。そこで、政府は2014年に「農業情報創成・流通促進戦略」を策定。農業情報のインターオペラビリティ(相互運用性)とデータポータビリティ(可搬性)を念頭に、農業分野全体における情報の利活用の促進に向け、先駆的な取り組みを展開してきました。

 最初に着手したのが「データの標準化」です。内閣官房IT総合戦略室が関係府省と連携して、それまで産地や作物ごとに異なっていた農作業や農作物の名称、温度や湿度などの環境情報などについて、用語の統一とデータの標準化を行いました。プロジェクトのスタートから約3年が経過し、ようやくその目処がついたところです。

 第2段階として取り組んでいるのが、「農業データ連携基盤(データプラットフォーム)」の構築です。ITベンダーや農機メーカー、関係府省など産官学が連携して異なるシステム間でデータ連携を可能とし、気象や土壌などのオープンデータや企業の有償データも提供するプラットフォームで、2017年中にプロトタイプの運用を開始する予定です。

 農業分野のICTにおける各種データは、これまで「競争領域」と「協調領域」が混沌としていました。地図や気象、市況などの公的データを含め、あらゆるデータを各ベンダーで揃えようとするとコスト高になってしまい、結局、農家が払うサービス利用料にコストが転嫁されてしまいます。そうではなくて、協調領域に属するデータに関してはデータプラットフォームを整備することで、できるだけ安く良質な情報を提供していきたいと考えました。

――農業のICT活用が目指すところは、農家の高齢化や後継者不足といった問題の解決でしょうか。

 熟練農家の「暗黙知」を「形式知」に変換、継承していくことで、日本の農業を付加価値の高い産業に変革していくことです。かつての日本経済を牽引した製造業は、規模の経済が働き、大規模化が可能なことからコスト競争に陥ってしまいました。一方の農業は、状況依存性が高く、クリティカルパスが書きにくい(最適解が得られにくい)ため、コストが付加価値の源泉になりにくく、それだけ潜在成長力が高いのです。私たちは、伝統的な産業である農業こそが21世紀の日本の成長産業だと考えています。

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