デジタル企業は
収益化を「先送り」すべき場合もある

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インターネット時代における収穫逓増のメリットを最大化するためには、企業は短期的な利益回収を「意識的に」保留・延期すべきであるという。それは非常に困難だが、長期的成長のために必要な決断だ。


 工業時代の優良企業が多く設立された頃は、最も優秀な経済学者でさえ「限界収穫逓減」の法則を固く信じていた。

 基本的にこの原理は、ある製品の生産が増えるほど、各増分単位の価値が減ることを意味する。チョコレートが全世界に500グラムしかなければ、大富豪しかその特別な味を堪能できない。しかし、もし地球上の海が突然チョコレートに変わったら、その増分価値は急落する。需要を上回る量のチョコレートが、間違いなく手に入るからだ。

 限界収穫逓減の法則は、工業時代を通して有効であった。何かをより多く生産すれば、需要曲線上で増えゆく各利用者にとって、その価値は低下したのである。

 ところが、この法則はインターネット時代を迎えると一変する。

 経済学者のブライアン・アーサーは、1980年代初め、ハイテク化が進む世界には、前述の原理が当てはまらない何かがあると考え始めた。いくつかの業界では、むしろ収穫逓増が見られると推測したのだ。つまり、何かをより多く流通させれば、各増分の価値がより高まるということである。

 アーサーの見解は、人々を最終的に、ネットワーク効果とフィードバックループの理解へと導いた。テクノロジーの世界では、何かを多くつくるほど価値が高まる可能性がある。たとえばフェイスブックは、自分の知人や友人がユーザーになるほど自分にとっての価値が上がる。メッセージアプリも、利用者数が増えるほど価値が高まる。イーベイやエッツィーなどのマーケットプレイスも、新たな売り手が商品を登録するたびに、新規ユーザーにとってはより有益となる。

 電子決済会社ストライプのCEOパトリック・コリソンは、今年(2017年)、筆者らがスタンフォード大学ビジネススクールの2年生向けに実施した戦略コースの開講を手伝ってくれた人物だ。彼の見解では、企業リーダーの意思決定基準において、工業時代とインターネット時代との間に決定的な違いを生んだのは、まさにこの点であるという。顧客にとって商品の価値が「時の経過につれて上がる」ならば、機能の開発と利益回収の優先順位を変える必要があるのだ。

 収穫逓増の重要性を真に理解しているリーダーは、おのずと利益回収の優先順位を下げることになるだろう。アマゾンウェブサービス(AWS)のような事業を考えてみよう。AWSは、長年にわたり、外部の開発者と企業にこのプラットフォームを導入してもらうべく投資をしてきた。その一環で、開発者へのハードルを下げるために価格を低くして機能を安価で提供する。

 これにより、クラウドヘルス・テクノロジーズ、キューボール、マップボックスなどのイノベーティブな企業が、AWSに特化した大規模投資をするようになった。アマゾンによるこのエコシステムへの投資は、提供価値を強化し、開発者のAWS導入をますます促進している。

 アマゾンは、既存の顧客から利益を「回収」するアイデアを数多く持っているはずだが、その前にプラットフォームのスティッキネス(顧客の定着度)を一段と高めれば、必ずその実りはもっと大きくなるだろう。AWSの巨大なエコシステムを強化するための機能・サービスの開発ロードマップを減速する必要が生じれば、賢明なリーダーなら(AWSのアンディ・ジャシーは間違いなくそのうちの1人だ)利益回収計画を当たり前のように先送りするはずだ。

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