特別インタビュー
自社の強みを見極め
事業コヒーレンスを高めるべき

PwCコンサルティング
ストラテジーコンサルティング(Strategy&)
シニア エグゼクティブ アドバイザー
岸本義之氏

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勝ち組企業は、いかにして戦略と実行のギャップを埋めているのか──。PwCネットワークで戦略コンサルティングを担うStrategy&は、独自の価値を顧客にもたらす商品・サービスを提供している企業を10年に渡って調査・分析し、その成果を『Strategy That Works』(邦題『なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか』)としてまとめた。高収益企業の徹底分析で判明した「5つの行動様式」と、それらが日本企業にもたらす示唆について聞いた。

「コヒーレンス」が
戦略と実行を結びつける

──『Strategy That Works(以下、STW)』では、戦略と実行を結びつけるための5つの行動様式(図表参照)について、豊富なケースを挙げながら具体的に解説しています。日本企業にとって「理解はできるが、実践のハードルが高い」と考えられるものはありますか。

岸本(以下略):1つ目の「自社の独自性を貫く」と5つ目の「将来像を自ら作り出す」ではないでしょうか。これら2つの行動様式がいかに戦略と実行を結びつける上で重要か、逆に従来型の通念と比較すればわかりやすいと思います。

「自社の独自性を貫く」ことと反対の行動の典型は、M&Aを通じた非関連事業への多角化です。成熟した先進国経済では、株主が期待する成長を達成する手段としてM&Aが多用され、結果として売り上げ・利益は伸び、株価が上がることもかつてはありました。しかし、自社の本業が何なのかわからなくなり、強みが薄れた“寄せ集め”の会社では、戦略と実行にギャップが生じやすく、自力で利益を伸ばす力が弱まってしまいます。

 潮目が変わったのは、新興国市場の台頭が顕著となった2000年以降です。本業に注力して強みを活かし、グローバルに市場を展開したほうが、高い収益を上げられることがわかってきたのです。

 一方、「将来像を自ら作り出す」ことと逆の通念は、環境変化への機敏な対応です。市場環境や競争環境、消費者ニーズの変化への機敏な対応は、一見すると正しい行動のように思えますが、戦略の不在、場当たり的行動と表裏一体とも言えます。これに対して、『STW』で紹介した14社は、自らの「勝ちパターン」を持ち、自分たちが有利になるように競争環境や業界構造を変えることで、将来像を作り出しています。その最もわかりやすい例が、携帯電話端末の業界です。

 日本の携帯電話メーカーは、環境変化への対応には優れているので、1年に何度も「ガラケー」のモデルチェンジを行いました。その結果、同質化競争に陥り、誰も儲からなくなったのです。一方、スマートフォンの分野では音楽やアプリやクラウドのネットワークサービスを投入することで顧客に利便性を提供し、コンテンツやアプリを提供する周辺企業が、その生態系の中で事業を営めるようにしました。まさに自ら望ましい将来像を作り出したわけです。

 時間を買うM&Aとか、環境変化への機敏な対応といった従来型の経営の常識が、戦略と実行のギャップを広げる危険性もあることを認識しておいたほうがいいと思います。

──『STW』で紹介した14社の共通点をひと言で表現すると?

「コヒーレンス」です。日本語に訳すと、共通性や関連性が高いといった意味になり、非関連事業への多角化の逆を行くことを表します。自社の独自性を貫き、強みを発揮できる事業に集約することで、事業のコヒーレンスが生まれます。それにより、戦略の方向性がより明確になり、企業カルチャーのコヒーレンスが強まり、戦略と実行の結びつきが一層深まるという循環を生みます。

──『STW』が日本企業に与える示唆は何でしょうか。

 一つは、複雑性の高い事業構造をどう解消するかです。日本企業は非関連分野のM&Aにはあまり頼らず、自前の多角化や、近接分野でのM&Aを行ってきましたが、複雑性を増してしまったという点では、やはり問題です。海外M&Aでは買収後の統合がうまくいかないことが多く、自前の多角化の場合は、事業部ごとの判断で展開したために“増築を重ねた温泉旅館”のような構造になってしまいました。社長ですら出身部門以外の事業の実態が把握できていないという状況すら見受けられます。

 では、どうすればいいのか。それは、自社の強みを、自らにもう一度問いかけてみることです。そのうえで、事業のコヒーレンスを高め、自社の強みをグローバルに展開する方向に舵を切るべきです。「選択と集中」は言葉としては定着していますが、日本企業は後手に回っている印象が否めません。会社が傾いてから、あるいは事業が赤字になってからの選択と集中では手遅れです。利益が出ているうちに各事業の強みや会社全体としてのコヒーレンスを見極めるべきです。

 幸いなことに、日本企業は人材に関しては均質性が高いと言えます。これは、部門をまたいだ配置転換がやりやすいという点で大きなメリットになります。自社の強みを発揮できない事業から引き揚げた人材を、強みを発揮できる事業に投入することは、今後の人材不足という社会的課題への対処にもつながります。

 ただし、グローバル化が進展するほど、外国人や中途人材の活用が不可欠となりますから、人材の均質性はデメリットにもなり得ます。短期的には人材の均質性を活かしながら配置転換を推し進め、長期的には多様性を受け入れる土壌を整えていくべきだと思います。

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