新たな未来の創造に向けて
グローバル企業が追求すべき7つの機会

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勝者と敗者を生まない、より包摂的なグローバル化と技術進歩を実現するために、グローバル企業は何をすべきか。BCGの識者が7つの取り組みを提言する。


 不確実性や不安を告げるニュースが目立つ今日だが、世界がかつてなく住みやすい場所になっているのも事実である。新興国市場では、膨大な数の人々が極貧から抜け出した。先進国で享受されている、薬、接続性、交通移動性などは、ほとんどの人がたった20年前でさえ想像できなかったほど高度になっている。世界の発展への希望は、多くの人々にとって現実へと変わったのだ。

 ただし、それは万人にとってではない。

 発展に関する「ストーリー」、つまり「変化を受け入れる代わりに、その恩恵を得る」という暗黙の事実は、経済的に取り残された人々とポピュリスト政治家によって、ますます疑問視されている。

 このストーリーは、3つの前提に基づいてきた。(1)グローバル化は成長と繁栄を大きく促進する、(2)テクノロジーの進歩は人々の生活を豊かにする、(3)株主利益は、企業が社会の発展に貢献していることの反映である、というものである。

 このストーリーが通用し続けることに疑問を呈する人々には、論拠がある。グローバル化は富の総計を増やして国家間の格差を縮めたものの、各国内では勝者と敗者を生み出してきたからだ。

 所得格差の増大によって、自国への信頼度(※)においてエリート層とそれ以外の人々で差が広がり、それがポピュリズムの台頭に寄与してきた(※訳注:自国の企業、政府、メディア、NGOをどれほど信頼するかを調査したもの。詳細は「エデルマン・トラストバロメーター」に関する日本語サイトも参照)。

 さらに、テクノロジーが人間の職を大量に奪い事態を悪化させる可能性への懸念も高まっている。

 政治の分極化、そして財政・金融の限られた余地に政策立案者が戸惑うなか、1つ確かであろうことがある。それは、グローバル化、テクノロジー、企業の役割――この3点をめぐり、グローバル企業は説得力のある新たなストーリーを推し進めなくてはならないということ。そしてそれを、確固たる行動によって支える必要があるということである。

●従来のストーリーはどこで破綻したのか

 グローバル化への強い支持は、主に次のことを前提としてきた。(1)グローバル化はほとんどの人々にとって恩恵となる、(2)多くの人々は自身の努力次第で成功できる、(3)恵まれない人々は社会保障制度によって一時的に守られる、というものだ。これまで、(特に教育による)機会の均等、効果的な社会保障、そして社会・政治・経済の安定を提供するのは、政府の役目であった。

 一方で企業は、成長、生産性、イノベーションの創出に自由に専念でき、社会に富をもたらすのはその最終的な結果であればよかった。このアプローチは、経済的格差がある程度の範囲内に収まっている限りは合理的だ。しかし、多くの欧米社会を含む世界各地で、所得格差は執拗かつ広がる一方であり、許容範囲を超えている。

 この問題を是正する方法については、意見が分かれてもよい。だが誰もが認識すべきは、富の分配に関する対処をしない限り、グローバル化の推進には無理があるということだ。

 テクノロジーについても同様だ。現在のところ、人工知能が拓く新たな可能性への情熱は、「恩恵の不均衡」と「職の喪失」への不安によって水を差されている。新技術の機能性ばかりが注目され、機会の均等を重視する包摂的なストーリーが欠如している現状が、すでに反発を呼んでいるのだ。

 広がりゆく批判に対し、「すべては最終的に何とかなってきた」ことを示す歴史上の類例ばかりを挙げて応じても、技術進歩を是とする主張は支持されにくい。

 最後の点として、企業は株主価値の最大化に注力することで、確かに生産性を向上させ、成長と富と雇用を生んできた。だがいまや、生産性の鈍化、世界貿易の失速、そして予期せぬ社会的・環境的な副作用に対処しなくてはならない。現時点で見られる主な対応は、自社株の買い増し、内部資金の積み増し、過去最高水準の配当引き上げである。一方、投資率はこの低金利にもかかわらず減少している。

 結果として企業はますます、潜在成長力よりも当期利益で評価されるようになっている。

 筆者らの調査によれば、多くの企業は短期利益への注力を強めており、長期的な価値創出と成長は低下傾向にある。

 新たなストーリーに説得力を持たせるには、何が必要だろうか。「いつも通りのやり方」の枠内で企業の社会的責任を強調するだけでは不十分だ。表面的な軌道修正では、信頼と信憑性を取り戻せない。説得力のあるストーリーとするには、筋書と主要登場人物の役割を練り直すことが求められると、筆者らは考えている。そして、ビジネスリーダーとその組織は、筋書の変更に受け身で応じるのではなく、今後の繁栄に必要な環境をつくるために積極姿勢を示す必要がある。

 世界の発展を維持するには、この新たなストーリーは経済的機会への公平なアクセスにもっと重きを置かねばならない。ただし、よりよいストーリーだけでは片手落ちだ。ビジネスリーダーは、未来の創造に向けた新たなアジェンダをしっかり踏まえ、それに沿って行動を起こす必要がある。それは社会を導くため、そして社会における便益と機会を人々が共有できるようにするためである。

●リーダーが取り組むべき、新たなアジェンダ

 その実現に向け、ビジネスリーダーは一見相反する2つの目標を両立させねばならない。第一に、自社の業績を守ること。これはCEOの最も重要な責任であり続ける。ただし、低成長、せっかちな投資家、地政学上の不確実性、急激な技術変化などが顕著なこの時代、その実現はいっそう難しくなっている。

 第二に、持続的な繁栄を可能にする環境を整える必要がある。そこで求められるのは、グローバルな経済統合と技術進歩をより包摂的に実現するモデルだ。

 これらの目標の達成に向け、筆者らはビジネスリーダーに、7分野の機会から成る新たなアジェンダを提案したい。これは政治へのアクティビズム(積極行動主義)をはるかに超えて、経済成長の包摂的モデルを持続させるべく尽力することによって、根本原因に対処するものだ。この取り組みは、不慣れで不都合な選択を伴う。たとえば短期利益の追求と、経済・社会の発展に貢献し企業を長期的に強化していくことの両立だ。

 以下がそれら7つの分野である。

(次ページは、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』を定期購読中の方のみご覧いただけます)

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