マッキンゼーのデータが立証する、
長期志向経営の経済的メリット

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長期志向の経営によるメリットとは何か。そもそもそれは、業績との実質的な相関があるのか。このたび、マッキンゼー主導の調査チームが、長期主義のインパクトを定量的に立証した。


 企業が優れた業績を上げるのは、経営陣が長期的な価値創造に取り組むときである。そして、四半期決算に対するウォール街の期待にしっかり応えるよう迫る、アナリストと投資家のプレッシャーに抵抗するときである――。

 このことは昔から、直観的には正しいとされている。ユニリーバ、AT&T、アマゾンなど、長期的な視点を断固貫くことで成功する企業を私たちは見てきた。とはいえ、長期志向の経営がもたらす見返りを数値化するために必要な、包括的データはなかった。ただし、これまでのところは、である。

 我々マッキンゼー・グローバル・インスティテュートおよびFCLTグローバルの共同チームは、新たな調査を実施した。その結果、真の長期志向の下に運営されている米国企業は、2001年以降一貫して、ほぼすべての重要財務指標において、同業他社よりも優れていることが判明したのだ。

 違いは顕著であった。我々が長期志向と判断した米企業は、そうでない企業に比べ、2001~2014年に累積平均で売上高は47%、利益は36%高い伸び率を示し、時価総額の伸びも速かった。

 そして、社会と経済全体にもたらす見返りも、同じように大きかった。我々の測定では、長期志向経営の企業は2001~2015年に、同業他社よりも1社平均1万2000ほど多く雇用を創出している。

 この計算に基づくと、もし米国経済全体が長期志向の企業と同程度のパフォーマンスを実現していれば、過去10年間で米国GDPは1兆ドル増え、500万の雇用が追加されていたはずである。

 どの企業がこのように優れた成果を上げ、それらを我々がどう特定したのかは、後述する。その前にまず、考慮しておくべき点がある。長期志向経営のメリットを証明する確実なデータを見つけることが、なぜこれまで困難であり、その結果、このテーマをめぐる論争がいかに紛糾してきたかである。

 我々は近年、短期志向の増大と原因について多くを学んできた。

 たとえばFCLTのアンケート調査では、企業の幹部・取締役の61%が、四半期利益目標の未達というリスクを避けるためなら裁量支出(R&D費や広告費など)を減らすと答えている。そして55%が、そうした状況では新規プロジェクトの開始を遅らせる(それによる価値逸失の可能性があっても)とした(英語報告書)。

 また、ほとんどの幹部が、短期利益への責任と長期的成功の両立はもはや難しいと感じている。自身が直面する短期利益へのプレッシャーは過去5年間(2011~2016年)で高まっている、とした回答者は65%に上った。

 過剰な短期志向の結果と思われるものは、米国における過去最高水準の自社株買い、そして新規設備投資の記録的な落ち込みという形で、誰の目にも明らかである。

 短期へのプレッシャーの高まりを測定し、ゆがんだ動機を探り当てるのは、特に難しいことではない。しかし、企業の短期志向が業績とマクロ経済成長にもたらす最終的な影響を検証するのは、非常に複雑な作業である。結局のところ、「短期志向」なるものに対応する定量的指標は1つもない。実に多くの複雑な要因が相まって、その特定をほとんど不可能にしているのだ。

 その結果、短期志向が本当に価値を毀損するのかをめぐり、エコノミストやアナリストの間で純粋な議論が白熱し続けている。我々および見解を同じくするCEO、たとえばブラックロックのラリー・フィンクや、カナダ年金投資委員会の元CEOマーク・ワイズマンなどが、もっと長期的な姿勢になるよういくら提言を続けても論争はやまない。

 学術研究では、短期志向がもたらしうる影響は、上場企業の低い投資率(英語論文)、および複数年間でのリターンの減少(英語論文)と関連づけられている。ある大胆な研究では、短期志向に基づくR&D費削減によって生じる米経済成長への損失を数値化しようと試みており、その逸失分を「毎年およそ0.1%」と算出している(英語論文)。

 一方、いまだに懐疑的な研究者もいる。もし短期志向が業績にそれほどマイナスならば、なぜ米国の企業収益はこれほど長期間、きわめて高いままなのか。そして四半期決算へのこだわりは、経営陣に説明責任を課す厳格なコーポレートガバナンスによる、当然の帰結ではないのか――。これが彼らの言い分である(英語記事)。

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