コストとは投資である
一律削減は成長を生まない

「Fit for Growth」で成長に必要な筋力を鍛える

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PwCの戦略コンサルティングを担うStrategy&は、書籍『なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか』において、戦略と実行のギャップを埋めるリーダーシップの行動様式として、「自社の独自性を貫く」「戦略を日常業務に落とし込む」「自社の組織文化を活用する」「成長力を捻出するためにコストを削減する」「将来像を自ら作り出す」の5つを提示した。今回は、「成長力を捻出するためにコストを削減する」という行動様式について、詳しく聞いた。(構成・田原 寛、写真・家老芳美)
 

成長とコストを別々に議論してはいけない

編集部(以下色文字):「成長力を捻出するためにコストを削減する」ことと、一般的なコスト削減とは、どう違うのでしょうか。

マハデバ・マット・マニ
(Mahadeva Matt Mani)

Strategy& ワシントンDCオフィスのプリンシパル。戦略に基づいた経営モデル改革、組織再設計、企業の機能改善、業務パフォーマンス改善を専門分野とする。Strategy&における「Fit for Growth」プラットフォームのアジア太平洋およびアメリカのリーダー。アメリカン大学で財務・マーケティング学士号、ジョンズ・ホプキンス高等国際関係大学院で国際公共政策修士号を取得。

マット・マニ(以下略):どのような会社でも成長のある段階で、コスト効率を高める必要が生じ、コスト削減と悪戦苦闘することになります。
 このとき、伝統的なアプローチでは全社一律で10%のコスト削減といった方法を取ります。人間に例えれば、短期的な食事制限で体重を減らそうとするのと同じで、長続きしないことが多いですし、必要な筋肉も衰えてしまいます。

 成長力を捻出するためのコスト削減を、我々は端的に「Fit for Growth」(成長への変革)と呼んでいますが、成長に必要な筋肉を強化するフィットネスと考えればイメージしやすいのではないでしょうか。企業の独自性の源泉となっているケイパビリティ、つまり筋肉を強化しつつ、脂肪、すなわちコストを減らすトレーニングです。

 どんな国でも、ほとんどの企業ではコストのアジェンダと成長のためのアジェンダが別々に議論されています。成長については経営企画部門やトップマネジメントが管理し、コストはそれとはまったく別に管理されているからです。これでは戦略と実行のギャップを埋めることはできません。

 戦略をうまく機能させるには、成長とコストのアジェンダを結合して、統合的に運用し、一貫性を持たせる必要があります。それをどうやるかが「Fit for Growth」です。

 まず、どこから手をつければいいのですか。

 全社一律で10%、15%というコスト削減目標を立てるのではなく、自社の独自性の源であり、自社を特徴づけているケイパビリティを明確に定義することです。ここで言うケイパビリティとは、企業が継続的に成果を生み出すために必要なプロセス、ツール、知識、スキル、組織の集合体です。

 競合他社との差別化をもたらすケイパビリティには優先的に必要な投資を行う一方、それ以外のコストについては、競合上必要最低限のレベル、あるいは業務遂行上最低限のレベルに抑制します。そして、価値を生み出していない、または生み出しているかどうかはっきりしない事柄や機能については、廃止するか大胆にコストをカットするべきです。差別化のために何が必要なのかが明確にわかっていれば、必要でないもの、やめるべきものは自然とわかるはずです。

 逆に、投資を集中すべき領域については、事業環境が厳しいときでも投資を完全に止めたり、他の分野と同じように一律のコスト削減をしたりするべきではありません。

 メキシコの大手建材メーカー、セメックスは2008年、住宅危機とそれに伴う景気後退で深刻な打撃を受け、業界他社と同じように徹底的なコスト削減を行いました。しかし、そうしたなかでも内部のナレッジ共有プラットフォームへの投資は継続しました。同社に持続的な競争優位をもたらしているケイパビリティの一つが、ソリューション提供者としての際立った強みであるナレッジ共有にあることを、経営者がよく理解していたからです。

 セメックスの従業員は政府機関や住宅所有者などの顧客が抱える問題を共有し、その解決のために建築や設計などの知識を提供できるよう訓練されていますが、それはナレッジを共有できているからこそです。苦しいときにもナレッジ共有というケイパビリティへの投資を続けたことで、同社は再び成長軌道に乗ることができました。

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