ブロックチェーンは
金融サービスをどう変えているのか

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 ほとんどの企業は、摩擦とコストの削減機会について言及している。結局のところ、たいていの金融仲介機関は、運営上、目が回るほど複雑かつ高コストな他の仲介者群に自身も頼っているのだ。欧州のサンタンデール銀行は、年間200億ドルの節約が可能だと見積もっている。また、コンサルティング会社のキャップジェミニの試算によれば、ブロックチェーンを使ったアプリケーションによって、消費者は銀行と保険会社の手数料を年間160億ドルも節約できるという(英語サイト)。

 たしかに、ブロックチェーンによって、JPモルガン・チェース、シティグループ、クレディ・スイスなどの既存の金融機関(いずれもブロックチェーンに投資している)は、少ない資源でより大きな成果を上げ、業務をスリム化し、その過程でリスクを軽減できるかもしれない。しかし、機に聡いこうした視点は有益かつ往々にして必要だが、それだけで十分ということは滅多にない。(旧態依然とした金融機関とは違い)すでに根本的な構造変化を遂げているビジネスやマーケットでは、コスト削減の余地はあるのだろうか。

 この点でも、ブロックチェーンは真のゲームチェンジャーとなる。経済における全参加者間の取引コストを削減することで、P2Pによるマス・コラボレーションを下支えするのだ。これにより、既存の組織形態のほとんどが不要となる可能性がある。

 たとえば、新しいベンチャー企業が成長資金を調達する方法を考えてみよう。従来は、新規ビジネスの初期段階ではエンジェル投資家に頼り、その後はベンチャー投資家に目を向け、最終的に証券取引所で新規株式公開(IPO)を行う。この業界は、多くの仲介者で成り立っている。たとえば投資銀行、取引所の運営機関、監査役、弁護士、クラウドファンディングのプラットフォーム(キックスターターやインディゴーゴーなど)だ。

 ところが、ブロックチェーンによってこの方程式は様変わりする。どんな規模の企業でも、世界中に株式を分散発行し、P2P方式で資金調達できるようになるからだ。この新しい資金調達の仕組みは、すでにブロックチェーン業界を変えつつある。ブロックチェーン企業は、2016年、従来型のベンチャー投資家から4億ドルを集めた一方、IPOならぬICO(新規コイン公開)で2億ドル近くを調達している(英語記事)。

 ICOは、単に企業の体裁で暗号通貨(トークン)を新規に発行することのみを意味するのではない。コンテンツの制作配信とデジタル著作権管理のプラットフォーム(SingularDTVなど)、分散型ベンチャーファンド(DAOなど)、ICOへの投資とデジタル資産の管理を容易にする新しいプラットフォーム(ICONOMIなど)といったサービスも関わっている。

 すでに現在、ICOの強固なパイプラインが存在する。たとえばCosmosは、世界中のあらゆるブロックチェーンをつなげる統合技術だ(ゆえに「ブロックチェーンのインターネット」という別名がある)。他の企業も、間違いなくこの流れに追随するはずだ。2017年には、ブロックチェーンのスタートアップ企業は、他のどの方法よりもICOによって多額の資金を調達する、というのが我々の予想だ。これは歴史的な転換点である。

 既存企業もここに注目している。ニューヨークを拠点とするベンチャーキャピタルのユニオンスクエアベンチャーズ(USV)は、ICOを直接購入できるように投資戦略を拡大した。メンロパークにあるベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツは、USVと共同で、トークンのみを購入するヘッジファンドのポリチェーンキャピタルに投資した。業界最大手の投資機関の1社であるブロックチェーンキャピタルは最近、ICOによるトークンの発行で新規ファンドの資金を調達すると発表した。これは業界初の試みだ。

 そして言うまでもなく、ゴールドマン・サックスやナスダック、インターコンチネンタル取引所(ニューヨーク証券取引所を傘下に持つ米企業)なども、ブロックチェーン企業に大型投資を行っている。

 あらゆる斬新なビジネスモデルと同様に、ICOもリスクを伴う。規制制度がほとんど、もしくはまったくないのだ。デューディリジェンスと情報開示が十分ではなく、ICO後に倒産した企業もある。「買い手の危険負担」が合い言葉となっており、初期の出資者の多くは、資金提供者というより投機家だ。

 しかし、この流れを止めることはもはや誰にもできない。ICOを正しく実施すれば、資金調達の効率が向上するだけでなく、起業家と投資家の資本コストが下がり、世界の資本市場への公平な参入機会が開かれる。

 ベンチャーキャピタルの世界が1年間で劇的に変わるとしたら、他にどんな変革ができるだろうか。ブロックチェーンによって、業界内の多くの複雑な仲介機能が一変する可能性がある。すなわち、身元と評価の保証、価値の移動(支払いと送金)、価値の保存(預金)、貸し借り(債権)、価値の交換(証券取引所などのマーケットプレイス)、保険とリスク管理、監査、税などの機能である。

 これにより、我々の知る銀行業は終焉を迎えるのだろうか。それは、既存企業がどう反応するかにかかっている。新しい技術パラダイムを受け入れ、内側から破壊を起こす企業にとっては、ブロックチェーンは存在を脅かすものではない。

 問題は、金融サービス業界の誰がこの革命を主導するかである。歴史を通じて、古いパラダイムの主導者は、新たなパラダイムの受容に苦労してきた。なぜAT&Tはスカイプをつくれず、Visaはペイパルをつくれなかったのか。CNNは言葉を放送用に短くするのが得意なのだから、ツイッターを生み出すこともできたはずだ。ゼネラルモーターズやハーツがウーバーを始めたり、マリオット・インターナショナルがエアビーアンドビーを考案したりもできたはずである。

 現代の金融を支えるインフラを、止めようのないブロックチェーン技術の波が飲み込もうとしている。過去に起きてきたパラダイムシフトと同じように、ブロックチェーンも勝者と敗者を生むだろう。この避けがたい衝突によって、旧態依然とした金融システムがあらゆる人々に繁栄をもたらすプラットフォームへ変わることを、我々個人としては望んでいる。


HBR.ORG原文:How Blockchain Is Changing Finance  March 01, 2017

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アレックス・タプスコット(Alex Tapscott)
ノースウエスト・パッセージ・ベンチャーズのCEO。ブロックチェーン分野のスタートアップを支援している。最新刊『ブロックチェーン・レボリューション』は父との共著。
 

ドン・タプスコット(Don Tapscott)
トレント大学総長。トロント大学ロットマン・スクール・オブ・マネジメント非常勤教授。著書はベストセラーとなった『ウィキノミクス』など多数あり、最新刊は『ブロックチェーン・レボリューション』(息子アレックスとの共著)。2015年のThinkers50(最も影響力のある経営思想家トップ50人)では第4位に選出。

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