Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

小さく始めて、大きく育てる――。
IT投資は「予想外の効果」も認識すべき

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工業経済からサイエンス経済へ、経済レジームの変化に伴い、企業経営におけるテクノロジーの活用が重要度を増している。それを認識し、思い切ったIT投資を行って、データを経営資源として戦略的に活用していこうとする経営者も増えている。ビッグデータ時代のオープンイノベーション戦略を唱える東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻教授の元橋一之氏に、データ活用に必要なプロセスと考え方を伺った。

戦略的なデータ活用に取り組む経営者が増えている

――IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)といったテクノロジーを活用したイノベーションの創出、ビジネスモデルの革新は、成長戦略の“一丁目一番地”にも掲げられていますが、昨今のブームをどうご覧になっていますか。

元橋一之(もとはしかずゆき)
東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻 教授 レジリエンス工学研究センター
1986年、東京大学大学院工学系研究科土木工学専門課程修了後、通商産業省入省。コーネル大学経営学修士(MBA)取得。慶應義塾大学商学博士課程修了。経済産業研究所上席研究員・計量分析データ室長を経て、2002年、一橋大学イノベーション研究センター助教授。東京大学先端科学技術研究センター教授などを経て、2006年より現職。経済産業研究所ファカルティフェロー、文部科学省科学技術学術政策研究所主任研究官などを兼務。

 現在は第三次AIブームといわれていますが、「エキスパートシステム」や「第五世代コンピュータ」が開発された1980年代の第二次ブームと比べて、一番大きな違いは経営者のマインドです。かつてのIT活用はあくまでも技術的な話であって、特殊な人たちがやっている世界でした。ところが、いまは経営者自らテクノロジーを理解し、経営に活かしていくことの重要性を認識して思い切ったIT投資を行っています。データ専門部署と開発、生産、サービスの各部門をつないで、データを経営資源として戦略的に活用していこうとする姿勢が鮮明です。

 なぜ、経営者の意識は大きく変わったのか。テクノロジー活用が経営に直結することが明白になってきたからです。アップルやグーグルといったテクノロジー企業の時価総額は過去10年で5倍以上に成長しました。これは現在、日本で最も時価総額の大きいトヨタ自動車の3倍以上の水準です。これらのスケーラビリティ(拡張可能性)を可能としているのがデータであり、情報です。21世紀に入り、それまでの工業経済からサイエンス経済に経済レジームがシフトしたことで、競争力の源泉はものづくりからビジネスの構築へ変化しました。そのことを経営者は肌感覚で実感しているのです。

――日本の経営者の意識が変わったことは当然、評価されますか。

 10年前に「ITの経営効果」という研究を行い、IT投資によって生産性がどのように変化しているかを日米の企業で比較調査しました。日本企業は人員削減などインプットを下げる方向にITを使う傾向があるのに対し、米国企業は新規顧客の開拓などアウトプットを拡大する方向にITを活用していました。両者の違いは何故生じるのかを調べていくと、CIO(最高情報責任者)の位置づけの違いにたどり着きました。

 米国企業には、ITの専門家が役員クラスにいて、テクノロジーを経営にどう活用するか、社長に物申すことができます。一方、日本企業には、CIOはいるけれど、総部部門や業務改革本部のトップが兼務しているケースが多く、ITのことはよくわからないから、IT部門長に「あとはよろしく」ということがたびたびありました。ここに来て、ITやテクノロジーの活用が担当部門任せから経営マターに変化したことは大いに評価されることであり、隔世の感があります。

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