イノベーションなんて簡単には起こらない

特別対談:高岡浩三×伊賀泰代【最終回】

1

生産性の著者、伊賀泰代氏とネスレ日本の高岡浩三社長との対談は今回が最終回。話は、働き方から、イノベーションが起こらない組織の問題の本質について。お二人の考えが見事に一致する。(構成/田原寛、撮影/鈴木愛子)
※バックナンバーはこちら第1回][第2回][第3回

一番のヒット商品はイノベーションアワード

高岡浩三(以下、高岡):ネスレ日本のヒット商品というと、「キットカット」の期間限定商品や「ネスカフェ バリスタ」などが社外では有名ですけど、私の中での一番のヒット商品は何かと考えると、実は「イノベーションアワード」かもしれません。

伊賀泰代(以下、伊賀):社内表彰的な制度ですか?

高岡 浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO
1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本入社(営業本部東京支店)。2005年、ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長に就任。2010年、ネスレ日本代表取締役副社長飲料事業本部長として新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月、ネスレ日本代表取締役社長兼CEOに就任。著書に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)、『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA)、『マーケティングのすゝめ』(共著、中央公論新社)、『逆算力』(共著、日経BP社)がある。

高岡:そうです。2011年に始めた制度です。今はほぼ全て正社員になりましたが、始めた当時はまだ派遣社員や契約社員もいました。そういう人たちも含めて、イノベーションを起こせる組織にしたいと思って、全社員からビジネスに貢献するアイデアを募ったんです。

 この表彰制度の肝は、アイデアを出すだけじゃなくて、自分で実行、検証すること。そして、優秀な成果を上げた人には賞金100万円を贈呈する。

伊賀:えっ、100万円!? それはすごい。しかも年齢とか役職とか関係なく、全社員が対象なんですね。

高岡:敢えて、そうしました。人事評価とイノベーションって関係あるのかなという私自身の疑問があったので。実際にやってみると、人事評価とイノベーションアワードでの評価にはまったく相関性がなかった(笑)。

 この制度をトップダウンではじめて、実際に小さなイノベーションが生まれてきた。顧客が気付いていない問題への解決策を考えて、自分で仮説を立て、実際にやってみて検証する。これを6年間続けてきたことで、日々の仕事のやり方にもかなりのインパクトを与えたと思います。

伊賀:日本人はイノベーションというと技術の話だと思いがちですが、全社員を対象としたアワードなら、人事や経理部門から非技術的なイノベーションの提案がでてくる可能性もありますね。しかもその活動が社内で紹介されれば、みんな「自分の部署でもできそうだ」と思うようになる。そこに価値があると思います。

高岡:受賞対象となったアイデアは、次の年に組織的に実行します。

伊賀 泰代(いが・やすよ)
キャリア形成コンサルタント
兵庫県出身。一橋大学法学部を卒業後、日興證券引受本部(当時)を経て、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスにてMBAを取得。1993年から2010年末までマッキンゼー・アンド・カンパニー、ジャパンにてコンサルタント、および、人材育成、採用マネージャーを務める。2011年に独立し、人材育成、組織運営に関わるコンサルティング業務に従事。著書に『採用基準』(2012年)『生産性』(2016年)(ともにダイヤモンド社)がある。
ウェブサイトhttp://igayasuyo.com/

伊賀:それくらい現実的な課題について考えろってことですね。

高岡:最初の年は70件程度のエントリーでしたが、年々応募が増えてきて、去年は社員数より多い4000以上のエントリーまで拡大しました。レベルも上がってきたので、賞を取ったアイデアを会社として実行すると、売り上げが上がったり、必ず何らかの成果が出るようになった。

 今はエントリーの数が増えたので、それぞれの役員が担当部門のトップ10を決めて役員会に持ち寄り、全員で審査するんですけど、最初の3年は数も多くなかったので私も全エントリーに目を通していたんです。それでおもしろかったのは、私が選ぶものとほかの役員が選ぶものがまったく一致しなかったこと(笑)。

伊賀:どう違ってたんですか。

高岡:そのころはまだ、顧客の気付いていない問題を解決することがイノベーションだという定義もできていなかった。ただ、私は直感的にわかってきたので、「これはおもしろい、芽があるな」と思うものを評価するんですが、ほかの役員はそつのないアイデアを選ぶ。

伊賀:改善や効率化みたいな話と、イノベーションの違いがわからなかったということでしょうか。

高岡:最近はそういうことがなくなってきましたが、別の問題もありました。何人かの役員が、「うちの部門からあまりいいアイデアがなくて」と言うんです。私は、「それは違うだろう」と。そんなすごいアイデアが一般社員からいきなり出てくるわけがない。「イノベーションの芽を見つけて、それを磨いて大きく育てるのが上司の仕事だろう」と言ったんです。

伊賀:わかります。それはたしかに上司の問題でしょう。

高岡:上の人間がイノベーションとは何かということを理解していないと、アイデアの芽を簡単につぶしてしまう。

伊賀:イノベーションって何かを大きく変えることにつながるので、なんであれ過去の否定につながります。だから過去のやり方で実績を上げてきた人には抵抗感が強い。何を聞いてもまず「そんなの無理だ」というところから入ってしまう。できない理由はいくらでも見つけられるから。

高岡:ネスレもグループ全体でイノベーションを起こしていくために、日本にならってイノベーションアワードを海外でも始めたんです。アフリカを含めて7、8ヵ国でやっています。賞金は1万ドル。

伊賀:生活費の安い新興国で1万ドルはすごくないですか?

高岡:私もビックリしました。ガーナでも1万ドル渡しているらしいですが、日本でいえば1000万円ほどの価値はあるんじゃないかと。

次のページ  上司がイノベーションをつぶす»
1
無料プレゼント中! ポーター/ドラッカー/クリステンセン 厳選論文PDF
Special Topics PR
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
最新号のご案内
定期購読キャンペーン
論文セレクション
  • facebook
  • Twitter
  • RSS
DHBR Access Ranking