キャップエコノミーの時代:
「未来へのワクワク」が富を産む

新春対談:安宅和人×伊賀泰代【最終回】

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ワクワクを生みだせば、富が生まれる。
もう過去に生きるのは止めよう

伊賀:安宅さんの言ってる話、いつ頃始まったのかなあと考えてたんですけど、「未来を変えている感」が価値を生み出し始めたのって、過去20年、もしかすると過去10年ぐらいのような気もします。

 日本がバブル崩壊で失速し、その後ヨーロッパでいくつかの国が破綻しそうになり、先進国は終わったと言われた時期がありました。そのとき世界が期待したのは、ゴールドマン・サックスが提唱したBRICSだった。

 でも、あれだってGDPドリブンの発想でしょ? 先進国はGDPドリブンの世界で行き詰まったけど、今でもまだGDPが伸びる余地のある国もあります。それがBRICSです、という話だったんです。でも今の状態を見ると、そういう「遅れてきたGDPドリブンの国」より、「先進国の中から生まれた未来を変える感」のほうが、成長を牽引し始めてる。パラダイムが変わったってことですよね。

安宅:そう。これを言うと、知り合いの経済学の先生は「安宅さんの言うことは面白いけど、そのまま受け止めると経済学をすべて書き直さなければならなくなっちゃう」と言う。

伊賀:企業会計、経済学、通貨制度に始まり、最近は近代国家制度という虚構までアップデートされそうになってる。面白いけどそれはマズいと考える人が多いのは当たり前。

安宅:そう。だからこそ、「いいところを突いている」と思うんです。これからは、キャップドリブンエコノミーに移ったという前提で生きていったほうがいいのはたしかだと思う。

伊賀:少なくとも若い人はそうだよね。今60歳の人はともかく、20歳前後で過去の虚構にしがみつくのはナンセンスです。

安宅:ですです。ワクワクを生み出せば、突然お金が降ってくる世界になったんです。それに向かっていかない人は、過去を生きるしかないでしょう。

伊賀:ただ、心配もあるんです。GoogleやAmazon, Appleは定期的に「未来を変える感」を具体的な商品やサービスの形で出してくるから虚構が信じられるけど、期待だけ集めて結局何もだせずダメになる会社だって出てくるはずです。1つでもそういう事例が出ると、GDPドリブンエコノミーが正しいと言いたい人は、「だからキャップドリブンエコノミーなんてダメなんだ」と高らかに宣言するでしょ? GDPドリブンの会社がダメになっている例だってたくさんあることを棚に上げて。

安宅:たしかに。でも、GDPドリブンエコノミーにいるようにみえる会社も、株価を解析すると昔とは違ってきています。マーケットキャップの内訳を見ると、(GDPドリブン的な)事業が生み出すキャッシュフローの現在価値(net present value:NPV)と資産価値(Asset value)だけでは説明できない。当然そこには、キャップドリブンによる未来からのお金の価値が10%から30%ぐらいないと説明できない。この差分が正のときも負の値の時もあります。GDPドリブンエコノミーの企業ですら、いまやキャップドリブンによる未来からのお金の価値に依存しているです。あなたたちの株価だって、NPVとASSETがまったく伸びていない時でも、未来からのお金の価値が勝手に成長していって、あるいは縮んでいって、今の株価が出ているんだと。

伊賀:もはや純粋にGDPドリブンだけで評価されてる企業なんてないってことですね。それにしても投資対象は未来を変える感だとしても、株価を形成しているお金は人々のリアルな投資資金です。それにそのリアルなお金を受け取った企業は、それを未来に投資しているとはいえ、実際には人件費に当てられ、研究開発費として使われてる。つまりリアルエコノミーそのものなんです。そこが金融や不動産バブルとの大きな違いになってる。バブル経済の時は儲かったお金がリアル経済に回らずに次の投機に向かうだけだった。帳簿上の数字が動くだけなんです。リアル消費に向かったのは銀座接待市場とか愛人市場とか一般の人には関係ない分野ばっかり(笑)。これでは普通の人に新たな虚構を信じさせるのは難しい。今、提示されている新しい虚構は、自分達の生活の生産性がめっちゃ上がる、どんどん変わるという夢を持たせてくれる。だから信じられる、というか、信じたくなる。

安宅:虚構が投資を生む。夢が投資を生む。素晴らしいよね。

伊賀:ですね。

安宅:ついに人間は、夢を羽ばたかせる力を得たんです。

伊賀:“今日の便利”を作ってくれる力だけでなく、夢を語り、夢を実現する力が評価されるというのは、ほんとにいい時代。

安宅:いい時代。例えて言うならば、今まではマッチ棒をつくって売ることが主だったけれど、マッチ棒をつくって売るのは機械がやってくれるので、夢見る力に集中できるようになった。ここでマッチ棒と言っているのは、イノベーションが過去に終わった既存の製品やサービスのことです。量的生産のためのハードワークの延長に答えはない。GDPドリブンエコノミーだけでは、この国に富はやってこないです。

伊賀:「がんばること」から「ワクワクすること」へ価値をシフトさせるということかな。

安宅:そう。これを国民の多くが信じれば、この国の未来は明るい。アメリカではカリフォルニアと東海岸中心におそらく4千万人から5千万人はこれを信じている人がいる。この人たちがいる限り、あの国は当面滅びないでしょう。でも、日本はたぶん100万人ぐらいしか信じている人がいないのじゃないでしょうか。

伊賀:1億人もいるのにワクワクする人、そんな少ないのかな?

安宅:聞いて「おっ!」と思う人はけっこう多いでしょうね。でも、行動様式は何も変わらず、やっぱり量的生産のためのハードワーク。いっぱいマッチ棒をつくろうという世界が続く。

伊賀:だって長い間それが「正しい生き方」だと言われ続けてきてますから。いったいどうすれば変われるのでしょう?

安宅:マッチ棒なんか大量につくらなくていいから、水素自動車とかビル壁面の全部太陽電池化とか、よくわからないけれど「未来を変えている感」のあることをできるだけたくさんしかける。失敗してもいい。失敗なんか忘れてまたやる。その繰り返しが大事なんだと思います。

【著作紹介】

生産性―マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの
(伊賀泰代:著)

「成長するとは、生産性が上がること」元マッキンゼーの人材育成マネジャーが明かす生産性の上げ方。『採用基準』から4年。いま「働き方改革」で最も重視すべきものを問う。

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(安宅和人:著)

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