マッキンゼー時代の両者。
「伊賀さんは、強靭な生命力をもった人」
「安宅さんは、学びが異常に早い」

新春対談:安宅和人×伊賀泰代【第2回】

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「安宅さんは、ダイレクトでパワーの要る学び方をする」

伊賀:そろそろ攻守交替して、次は私が当時の安宅さんのイメージを話す番かな。

安宅:なんでしょう。

伊賀:私は採用担当として新人を勧誘したり評価するのが仕事だったんですが、同時にマッキンゼーを辞めた人を引き戻すのも、大事な仕事の1つだったんです。

 だから安宅さんがマッキンゼーを辞めてPh.D.を取るために留学していたときにもニューヨークでランチに誘って、マッキンゼーに戻ってきてもらうためのリクルーティング活動をやってました。そのとき、安宅さんに「これから何をやりたいの?」と聞いたんです。

 留学前、マッキンゼーにいたときの安宅さんは、マーケティングを専門にしてました。でもマーケティングを学ぶために留学したわけではなく、ニューロサイエンスでPh.D.を取りに行ったのですよね。当時、私のなかではマーケティングとニューロサイエンスのつながりがよくわかっていなかった。で、結局なにがやりたいのって聞いたんです。

 そしたら安宅さんが「僕が興味あるのは、人間が何に基づいてどのような判断をして、どういう行動をするのか、その裏には何があるのかというメカニズム。それは大きな意味でのマーケティングの話でもある。でも同時に人間がどう考え、どう判断するかというのは脳が決めるわけだから、そのメカニズムを研究するのはニューロサイエンスなんだ」って。

 それを聞いて、自分が関心のある課題を解くためのツールとしてコンサルタントとしてのマーケティング業務からニューロサイエンスの研究まで、ものすごく幅広いツールを駆使するんだな。やりたいことは一貫してて明確、かつ、それに対する方法論の幅の広さがすごいと思いました。

 もちろん私の立場からはマッキンゼーに戻ってきてほしかったけど、自分の解きたい問題を解決できるベストな職業に従事して欲しいなとも思いました。きっと今の仕事もそういう意味ですごく合ってるんだと思いますけど。

安宅:いや、たぶんバカ話しかしていないはずですが(笑)。

伊賀:安宅さんはバカ話の中に本質的なコトを混ぜ込んでくるから気が抜けない(笑)。

 あと、新卒で入ってきた安宅さんが10年ぐらいマッキンゼーで成長していく姿を見ていて、すごくダイレクトでパワーの要る学び方をするなあとも思ってました。

 普通の人は失敗する前に「どうすれば失敗しないか」を探るんです。だから事前に「こうしたらいい」とアドバイスされると、まずはそのやり方でやってみる。うまくいかなかったら「もうちょっとうまくいくやり方はありませんか」と聞いてまた試してみる。そうやって少しずつ前に進む。

 でも安宅さんは自分が正解だと信じた方法でいきなり問題を解決しにいく。新卒の頃は組織や人の気持ちもよくわからないから、そういう方法だとすごい摩擦が起こって自分も傷つくし、周りの人も傷つけたりするんだけど、そこからの学びは異常に早い。

安宅:僕ね、マッキンゼーに入ってあっという間にクビになりそうになったんです。クライアントのマネジメント層が全員いるところで、部長さんに胸ぐらをつかまれる寸前までいった(笑)。「俺に喧嘩を売っているのか!」って。あいだに人が入って事なきを得ましたけど、僕は、この人がなぜこんなに怒っているのかわからなかった。

伊賀:私を含めて中途半端に器用な人は、そういう失敗をしないんですよ。「なるほどコンサルタントに求められているのはこういうことなのね」みたいなことを要領よく学んでしまうから。でも安宅さんはイチイチ体当たりしながら学ぶので、衝撃は大きいし周りの人にも波動を与えるけど、一方そういうスタイルで学びが得られるのはすごく強いと思いました。あんなことができる人はなかなかいない。今、それは変わりましたか?

安宅:自分じゃわからない。多少はましになったかもしれないけれど、今もそんなに器用だとは思わない。まあこれも持ち味ということでやっています。この勇気を出してぶつかるストレートさのお陰でバリューがでていることも多いし、そのために長年信用してくれる人、大切な友人になってくれている人も多いですから。多くの人は、もうちょっとスマートですよね。僕は不器用なんだろうとは思います。自分の強度をあまり考えていないのかもしれない。爆死して、灰になってから考えるタイプかも(笑)。

伊賀:それと安宅さんが研究者的だと思うのは、みんなから「そういうことをやってもうまく動かない」「そういうことを言うと組織から反発食らう」と言われても、言われただけでは絶対に信じないところかな。必ずエビデンスを取りに行くんだよね。それで跳ね返されてはじめて「ああなるほど、このやり方だとこういうフィードバックがくるのか」と1つずつ検証する。時間はかかるけどすごく正しい学び方だと思います。

安宅:ありがとう。実は、あの場面でも、誰も僕にアドバイスしてくれなかったんだよね。僕もちょっと口に出してしまっていいのか不安だったので、横にいたハーバードビジネススクールを出た人に「クライアントにこういうことを言っておいたほうがいいと思うんですけど、どう思います?」って聞いていたんですね。すると「いいと思うよ、言っちゃったほうがいい」と言われた。だから言ったのに、それから10分後には部長さんに胸ぐらをつかまれそうになっていたという、、(笑)。

伊賀:面白い。横にいた人には、安宅さんがぶつかったら爆死することは見えていたはず。でも1回やらせてみようと思ったんでしょうね。理屈では正しいことを現実社会でやってみて何が起こるか、それは「やってみて学ぶ」しかないと思えたのかも。

 話は変わりますが、マッキンゼーって理系のPh.D.の採用が多いんだけど、彼らの多くはアカデミックポストのオファーを蹴ってマッキンゼーに入ってくる。話を聞くと「博士課程に入って1年ちょっとで博士論文は完成していました」みたいな人ばかり。安宅さんもアメリカでPh.D.を取るのにかかった期間がすごく短かった。

 でも世の中ではオーバードクター問題が起こり職につけない人も多いと聞く。考えてみると研究者といってもその生産性には大きな差があるように感じるんです。

「証明されたらものすごく大きな価値がある仮説を立てて、それをファクトとロジックで証明していく」、その工程はコンサルタントと研究者に共通してるけど、大事なことはPh.D.を持ってるかどうかじゃなくて、そういうプロセスの生産性が高い人かどうかってことだと思うんです。安宅さんに聞きたいのだけど、同じPh.D.を持っている人でも、生産性の格差は驚くほど大きいんじゃないですか? 

安宅:超一流の研究者と普通の研究者を比べると、生涯に生み出すサイエンティフィックコミニティに対するインパクトは、おそらく1,000対1ぐらいかな。もしかしたら10,000ぐらいあるかも。少なくても100では効かない。

伊賀:それって、普通のビジネスパーソンの生産性の差よりかなり大きいですよね?

 会社の中でもっともよくできる社員と、平均的な社員の差がそこまで大きくなるとは思えない。

安宅:アインシュタインは、たぶん1億倍ぐらい。

伊賀:まあ彼は特別としても、研究の世界ほど生産性の違いがシビアに出てくるところはないのかもしれない。

安宅:日本での僕のサイエンスの師匠の一人である大石道夫先生に「サイエンティストは一流とothers(その他)でできている。一流にならなかったらまったく意味はない」と研究を始めた頃、言われたんだよね。一流とは、分野そのものや、領域の背骨をつくっていくような人。それに対して普通の人は、一流がつくった背骨の間の枝葉の部分の絵を描く人。背骨をつくれる人が千人から1万人に1人。その人たちが著名な研究者になって、その中からひと握りのノーベル賞受賞者が出てくるんです。

伊賀:そういえば安宅さんがマッキンゼーに戻ると決めたとき、私が「戻ってきてくれてありがとう」と言ったら「これでもうノーベル賞を目指すなんて言うことは諦めないといけない」と言ってた(笑)。

安宅:だってさ、才能のもっとも豊かな時期を捨ててしまうわけですよ(笑)。

伊賀:「捨てる」とか言わないで(笑)。でもホントに嬉しかった。採用担当をしてると「マッキンゼーに入りたくて入りたくて入りたくて!」みたいな人とたくさん出会うので、誰を入社させるのか、それを選ぶのが採用の仕事だと思われてるけど、実は反対なんです。

 私の仕事はたくさんの選択肢がある人に「マッキンゼーを選んでもらうこと」だった。だから安宅さんから選んでもらえて、私としても自分の仕事に誇りを持つことができた。そんな記憶があります。

第3回につづく。

【著作紹介】

生産性―マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの
(伊賀泰代:著)

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