日本企業が外国企業のM&Aで
成功するために必要な要件

ボストン コンサルティング グループ会長ハンスポール・バークナー氏に聞く

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日本企業による外国企業のM&Aが活発化している。少子高齢化などで国内市場の拡大余地が少なくなる中、成長を求めて、スピーディに外国市場に参入するためだ。しかし、計画通りの収益が挙げられず、苦戦するケースは多い。こうした事態はどのようにすれば避けられるのか。多くのM&A案件に関わり、成功に導いてきたボストン コンサルティング グループ会長のハンスポール・バークナー氏に11月1日、M&A成功のための要件を聞いた。

2017年は不確実性が高いものの
M&A市場は活況の見通し

編集部(以下色文字):今日、世界のM&A市場はどのような状況にありますか。

バークナー(以下略):世界のM&A市場は、2008年のリーマンショック以降しばらく沈滞していましたが、M&A取引総額では2014年頃から回復し、2015年には過去最高レベルに近づきました(下図参照)。

 2016年は、データが明らかになっている第3四半期までは前年同期比で30%程縮小しました。とはいえ、第4四半期に入ってから、ATTによるタイムワーナーの買収合意や、クァルコムによるNXPセミコンダクターズ買収合意などがあり、通年では拡大基調にあると推測します。

 企業は、成長を求めて、M&Aをより重視するようになっています。特に米国企業はドル高を背景に、M&Aに積極的になる状況にあります。

 一方、全体的にバリュエーション(企業価値評価)が非常に高くなっていることは、企業の姿勢が慎重になる要素となります。また、2017年は、ドイツやフランスなどで重要な選挙があり、それらの結果や見通しも、投資活動に大きく影響を与えます。そうした点で不確実性は高いと言えます。

 とはいえ、企業は総じて、キャッシュ(現金)を十分に持っています。プライベートエクイティやヘッジファンドも同様で、流動性が高い状況は続いているため、いい案件があれば、M&Aに踏み切るプレーヤーは多いと思われます。これらの条件から総合的に判断すれば、来年2017年も、M&A市場は活況でしょう。

 経営者は成長を求めており、資本市場からも成長を求められています。しかし多くの企業は、既存の経営資源による自前の成長では、資本市場が求める成長水準を達成できない状況にあります。したがって、M&A活用のインセンティブは高いのです。

しかし、バリュエーション(企業価値評価)が高い状況では、投資効果が十分に出ない危険性はありませんか。

 最近の我々の調査では、「ポートフォリオマスター」と呼ぶ、頻繁に売買を繰り返す企業は、バリュエーションが高くてもM&Aを実行していて、相対的に高いTSR(株主総利回り)をあげています。この結果はとても面白いと思います。

 確かに、価値を毀損しているM&Aでは往々にして購入価格が高すぎます。だからと言って、「この企業の価格は十分に安い」という理由でM&A実行の判断をするべきではありません。バリュエーションが高くても、高い購入価格を上回るリターンをあげられることを経営陣が見極められる案件であれば、より高いTSRを実現することが可能です。

 TSR向上のために大切なポイントは2つあります。1つはシナジーがあると見込まれること、もう1つはシナジーを確実に実現できることです。M&Aに関しては誰もがシナジー、シナジーと合い言葉のように口にしますが、それを実現できなければ意味がありません。

 シナジーには、買収対象と自社の機能を統合することなどで実現するシナジーと、買収先の事業をうまくマネジメントすることで、成長領域に展開する、効率化を実現するというような、買収先の価値向上を通じたシナジーの両面から考える必要があります。

シナジーを実現できるかいなかの差は、どこにありますか。

 企業の能力であり、経験です。たとえば比較的成功の確率が高い、自国内での同業他社のM&Aであっても、本社機能や生産部門など重複する機能や部門の統合をきちんと実施して無駄をカットし、生産性を高めなければ、M&Aの価値はありません。

 具体的には、重複する組織では人員や設備を減らすなど身を削る取り組みが必要になります。そうしたリストラクチャリングを着実に実行できる能力がないと、見かけ上どれほどシナジーが見込めたり良い組み合わせだったりしても、TSRは高くならないものです。

 そのためには、現場のプロジェクトマネジメントの能力が要求されます。一般に日本企業は欧米企業に比べて、このプロジェクトマネジメントの能力をもった人材が不足しています。M&A後、相手企業との統合をマネジメントして、シナジーを具現化する局面での実行能力が弱いと思います。

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