IoT時代には
ユーザーとの「対話」で価値を生む

——ローランド・ベルガー代表取締役社長・長島聡

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対話で得た情報を
ビジネスに活かすために

「今後は、『どのように提供するか』や『何を提供するか』以上に、『どのような企業が提供しているのか』がよりいっそう重要な要素になると考えています」

 企業側には対話のニーズがあるかもしれませんが、ユーザー自身も企業との対話を望んでいるものでしょうか?

 私は、対話を通じて開発から携われたという経験は、ユーザーにとって喜ばしいものだと考えています。マス・カスタマーゼイションのレベルを超えて、モノづくりの設計図の段階で何かしらの影響をもたらせた人は、「自分が言ったからこの機能が積まれたんだよ」と自慢します。それがクチコミで広がり、販売によい影響を及ぼすことは十分に考えられるのではないでしょうか。

 たとえば、「中国のアップル」と呼ばれるシャオミ(Xiaomi)では、OSや携帯電話の機能開発において開発者とユーザーがつながっており、週次のサイクルでPDCAを回しています。ネット上のフォーラム(BBS)やSNSの微博(ウェイボー)を通じて、新しいバージョンを使った感想や要望・不満・バグを「体験レポート」として吸い上げます。対話を通して選別されたアイデアをスクーリングして、1週間後にはアップデートや新機能を搭載するのです。それによって、「私のアイデアが採用されたよ」と言う人が増えていきます。

 ユーザーの要望にそのまま応じると高機能化が進む可能性はありますが、それが必ずしも市場で評価されるとは限りません。ユーザーからのアイデアや情報の取捨選択はどのように行うべきですか?

 それにはいろいろなやり方があると思います。他のユーザーによる否定的な意見に耳を傾けることも必要ですし、ウーバーのようにユーザーやドライバーをレーティングすることも考えられます。提示した問題にきちんと反応してくれる人とそうでない人を見極め、前者をティーチャーカスタマーという位置づけにして、発言の重要性を高めることもできるはずです。価格と機能をセットにした問いかけや、開発スタート前の購入意向確認といったアプローチももちろん有効です。

 その前提として、企業側がしっかりとした意思を持つだけでなく、交流から得たさまざまなアイデアや機能を安価に実装する工夫をすることが重要です。対話に登場した意見を実際にかたちにすることが大切なのです。企業が「こうした機能や価値を届けたい」という明確な意思を持ち、「ハードウェアではスケールメリットを徹底的に追求」「必要な機能はソフトウェアでオン・オフ」といった工夫をする。こうすれば、企業側は自社のブランドを際立たせたうえで、ユーザーそれぞれにぴったりの高機能化を実現することができます。

 ユーザーの意見を得てそれをかたちにする中から、誰の情報の信頼性が高いのかについても精緻なデータとして蓄積し、その解析を行うことも可能ではないでしょうか。それはアイデアを捨てるという選択に頼らずに、個々人という小さな市場ごとに高い評価を得ることにつながると考えています。

 長島さんは、ユーザーと有効な対話を実現するうえで、企業の真の姿である「企業人間性」を確立する必要性を説かれています。企業人間性とは何でしょうか?たとえば、企業理念などとは異なる概念ですか?

 企業人間性は企業理念とはまったく違います。企業理念とは企業にとってのゴールに近いものであり、企業が守らなければいけないものです。一方、企業人間性とは、ユーザーとの対話を通して自然に伝わるイメージのことを指します。

 たとえば、「あの会社はここにこだわっている」「私をとても尊重してくれている」というイメージはそうですね。ユーザーから見た企業の特徴とも言えるでしょう。企業側の意思に加えて、ユーザーの理性や感性にも大きく依存するため、企業人間性は必ずしも1つとは限りません。

 対話という親密なコミュニケーションは、とても豊かな情報を内包しています。それを通じて企業の真の姿、すなわち企業の人格が垣間見えます。あらゆる接点においてユーザーと質の高い対話が進むことは、信頼を構築する機会が増えると言えますが、同時に、ごまかしや隠蔽、ひっかけがある場合はそれが発覚しやすい状況を生み、ともすれば容易に信頼を損なう状況にもつながるとも言えます。そのため今後は、「どのように提供するか」や「何を提供するか」以上に、「どのような企業が提供しているのか」がよりいっそう重要な要素になると考えています。

 ユーザーとの接点がどれほど多様化しても、すべてのユーザーと直接対話を持つことは難しいため、企業人間性を伝える手段はホームページやオウンドメディア、マスメディアを通した広告などに限られると思われます。ただ、そこでは耳障りのいい言葉が使われており、ユーザー自身もそれを見抜いています。企業は企業人間性をいかに伝えるべきでしょうか。

 現在のオウンドメディアで受動的に情報を受けただけの人たちがとらえる人間性は、あまり意味を持たないものになってくるでしょう。それは一方通行であり、共有や交流といった対話の特徴を満たしていません。だからこそ、真の対話へと進化することが求められているとも言えます。

 ホームページなどはユーザーが接触する窓口にはなりえはしますが、このままでは企業人間性を判断するうえではまったく機能しないと思います。もし機能させるとしたら、常にさまざまな製品・サービスのメニューが更新され、そこに従業員との対話の機会がたくさんあり、それぞれのユーザーは自分の好きなタイミングで好きなメニューを選択できるようにしておくことが必要です。

 企業がユーザーにどう思ってもらいたいかも大切ですが、企業人間性をもとに信頼を構築するうえでは、それ以上にユーザーが企業をどう捉えているかに目を向けることが重要です。そのため企業には、ユーザーが企業からどのような思いを感じているかを掴み取れるかが問われています。企業が生み出している製品やサービスの背景にある価値観をしっかりと共有し、相互理解を深めていくことが重要だと考えています。

 受け身のユーザーとは対話そのものが生まれないと思われますが、彼らの意見も重要ではありませんか?

 たしかに受動的な人はコアにはなりませんが、能動的な人に巻き込まれていく傾向はあると思います。ただ、これまではそもそも接点となる場がなかったといえるのではないでしょうか。世の中には発信したいと思っている人が相当数います。日清のカップヌードルミュージアムやカルビーのスナックスクールにはたくさん人が集まっていますよね。また、クックパッドのようにユーザーの投稿で成り立っているシステムもあります。対話の場さえあるならば、自分も参加してみようという人は増えると思います。

 まず、場をつくることが大切です。そのうえで対話のメニューを揃えていく。そのためには、社内でいろいろな部門の人たちがやっていることの問い掛けから始めることです。また完成しているメニューに限らず、いま取り組んでいることや夢でもかまいません。とにかくたくさんやることです。そうした対話の数を重ねることによって、企業人間性が正しく把握され、信頼感も増すようになります。

 従業員一人ひとりが発信できるリードタイム付きのメニューを持ち、それをデータベース化して次々に投入していくイメージを共有することで、対話が機能するのではないでしょうか。ただし繰り返しになりますが、言いっぱなしでは、せっかく設けた対話の場を失うことになるので注意が必要です。

 いずれにせよ、対話のメニューがたくさんあることが重要だと思います。それも「決まったこと」だけを伝えるのではなく、いつまでにつくり上げたいという「決まっていないこと」も伝えることが大事だと思います。途切れない対話、対話の密度が競争力の源泉となるのは間違いないのではないでしょうか。

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