自社独自のケイパビリティを改善し、
需要を創造する

ポール・レインワンド氏に聞く 戦略を確実に実行する法【後編】

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多くの経営者が、「自社の戦略がきちんと実行されず、思うように収益が上がらない」と悩んでいます。原因は、組織能力にあるのか、戦略の立て方にあるのか。長年の研究によってこの問題への解を見出し、それを体系的にまとめたなぜ良い戦略が利益に結びつかないのか(ダイヤモンド社)の著者に、戦略を確実に実行して高収益企業になる方法についてインタビューし、2回に分けてお伝えします。今回は後編。市場の変化にどう対応していくべきか、日本企業は何をすべきか、について聞きました。(構成・新田匡央、写真・引地信彦)
※前編はこちら


編集部(以下色文字):ここまでのお話前編で、差別化されたケイパビリティの重要性はよくわかりました。ただ、一度築いたケイパビリティが市場構造の変化によって強みではなくなる可能性はないでしょうか。例えば、ウォルマートのEDLP(Everyday Low Price)は彼らのケイパビリティだったと思いますが、アマゾンの登場によって強みではなくなってしまいました。

ポール・レインワンド
(Paul Leinwand)

PwCの戦略コンサルティングを担うStrategy&のグローバル・マネージング・ディレクター。PwC米国のプリンシパル。ケイパビリティに基づく戦略と成長を主導し、多くの業界・地域の企業に企業戦略を助言する。主著にチェザレ・メイナルディとの共著でCut Costs and Grow Stronger(2009年)、The Essential Advantage(2011年)のほか、『ハーバード・ビジネス・レビュー』『strategy+business』に論文を多数執筆。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院で戦略論の非常勤教授も務める。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBA取得。ワシントン大学セントルイス校で政治学学士号取得。

ポール・レインワンド(以下略):ケイパビリティは、必ずしも今あるものだけにとどまりません。自分たちの強みをベースにさまざまなことを考え、変わりゆく経営環境のなかで、ケイパビリティを勝てるものに変えていかなければならないのです。そのためには、勝てるケイパビリティをつくるための努力を集約化しなければなりません。

 さらに、自社にとって何が重要で、差別化のために何が使えるかということがわかっていれば、自分たちでケイパビリティを常に改善し続けることもできるはずです。

 フリトレーは、相当な規模の投資をすることで、ダイレクト・ストアデリバリー・ケイパビリティを拡充してきました。テクノロジー、トラック、運転手の能力が自社の優位性の源泉であることがわかっているからこそ、常に何らかの形で改善に努めてこられたのです。

 これに関して強調したいのは、市場やテクノロジー、消費者の需要が変化し、顧客そのものが変化していくなかで、企業としての優位性を持ち続けるには、変わらない需要に対する自社の強みを考えるということです。

 アマゾンのジェフ・ベゾスはこう言っています。

「私は頻繁に『この先の10年で何が変わるのか』という質問を自分に投げかけます。反対に『この先の10年で何が変わらないか』という質問は絶対にしません。しかしながら、二つ目の質問は一つ目の質問よりも重要です。私たちが展開する小売業では、顧客が低価格での商品提供・迅速な配達・商品の幅広いチョイスを望んでいて、この要望がこの先10年間変わらないであろうことを十分に理解しています。現在顧客の要望に応えるために注いでいる努力により、今後の10年間が報われるということは当然のことです」

 つまり、自社にとって大切なことをさらに改善していくことが最も重要なことなのです。

現代は社会環境の変化が目まぐるしいので、「変化するもの」に目が向けられやすくなりがちですが、変わらないものを見たほうが長期的には勝てる、あるいはケイパビリティを磨くことができるということですか。

 多くの企業の経営者層は、市場環境の変化を心配しています。テクノロジーの変化、競合の変化、地政学的な変化、世界情勢の変化に関する懸念です。しかしもっと重要なのは、それらの変化が企業のアイデンティティの存続を阻害したときです。多くの企業はそうした変化に受動的に対応することにとどまっているため、当初のアイデンティティを見失ってしまうのです。

 そんなときは、自らのケイパビリティを再定義し、それに基づいて顧客を理解し、需要を自ら創出し、自社に有利な形で業界構造を再編すべきです。この姿勢は「将来像を自ら作り出す」という考え方で、「従来型の通念にとらわれない行動様式」として非常に重要な戦略の一つです。

 メキシコにセメックスというセメント企業があります。セメックスは住宅市場危機のときに、同業他社と同じように売り上げが急落し、非常に危機的な状態に陥りました。コストを削減せざるを得ない状況でしたが、セメックスはむしろ市場における差別化を狙って攻めていったのです。

 セメントはコモディティ商品だから差別化は難しい、というのが一般的な認識だったなか、セメックスは地方自治体のインフラプロジェクトの役に立つという視点に立ち、地方自治体と組むことで多くの事業に関わる道を選びました。これによるメリットの一つは、顧客と密接に関わることで、競合他社が知ることのできない多くの情報を手にできるという点です。これがセメックスの優位性のあるケイパビリティとなったことで、自ら需要を創り出していくことができたのです。

 イケアも同様です。本来は店舗の管理をしなければならない店長に消費者の家を訪問させ、一般の住宅で消費者がどのような生活をしているかを観察させました。店長自身が消費者の抱える問題を見たことで、そこからデザインのイノベーションが生まれ、製品に反映させることができたのです。

 企業が将来を形成するうえで、消費者や顧客にアクセスする権限を持つことは非常に重要です。消費者や顧客の要望や要求を直接聞くことももちろん重要ですが、基本的な問題を実際に見て、消費者や顧客の本当のニーズがどこにあるかに気づくことはそれ以上に重要だと思います。そのニーズに対するソリューションを生み出すことができれば、将来の新たな市場を形成することができるからです。

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