自社独自のケイパビリティと
市場ニーズをマッチさせる

ポール・レインワンド氏に聞く 戦略を確実に実行する法【前編】

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多くの経営者が、「自社の戦略がきちんと実行されず、思うように収益が上がらない」と悩んでいます。原因は、組織能力にあるのか、戦略の立て方にあるのか。長年の研究によってこの問題への解を見出し、それを体系的にまとめたなぜ良い戦略が利益に結びつかないのか(ダイヤモンド社)の著者に、戦略を確実に実行して高収益企業になる方法について、インタビューし、2回に分けてお伝えします。(構成・新田匡央、写真・引地信彦)


編集部(以下色文字):いま、「走りながら考える」スタイルを中心とするリーン・スタートアップのような考え方が優勢になっているなかで、戦略に対して不信感を持っているマネジメント層が増えているように感じます。戦略の有効性について、どのようにお考えでしょうか。

ポール・レインワンド
(Paul Leinwand)

PwCの戦略コンサルティングを担うStrategy&のグローバル・マネージング・ディレクター。PwC米国のプリンシパル。ケイパビリティに基づく戦略と成長を主導し、多くの業界・地域の企業に企業戦略を助言する。主著にチェザレ・メイナルディとの共著でCut Costs and Grow Stronger(2009年)、The Essential Advantage(2011年)のほか、『ハーバード・ビジネス・レビュー』『strategy+business』に論文を多数執筆。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院で戦略論の非常勤教授も務める。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBA取得。ワシントン大学セントルイス校で政治学学士号取得。

ポール・レインワンド(以下略):確かに、多くの企業幹部が戦略に対してフラストレーションを感じています。私たちが世界の企業の経営者層に対して行った調査では、半数以上が勝てる戦略を構築できていないと認識し、約9割が市場で大きなチャンスを逃していると認め、約8割は戦略が自社内で理解されていないと回答しています。この結果は、憂慮すべき二つの問題を内包しています。

 一つは、企業幹部として企業の舵取りを担っているにもかかわらず、自らの戦略に自信を持つことができていないという問題です。

 もう一つは、およそ50年間にわたってさまざまな戦略論が打ち出されてきたにもかかわらず、企業に成功への処方箋を与えられなかったばかりか、際立った成果を上げられていないという問題です。

 従来型の戦略は、アイデアやビジョンを打ち出し、企業が自ら望んだ目標を達成することだけを考えていました。しかし、それでは最前線で戦略を実行する人たちにフラストレーションがたまってしまいます。なぜなら、アイデアやビジョンが素晴らしい内容でも、現実には実行不可能というギャップがあるからです。

 私たちが提示する戦略についての考え方は、これら過去に打ち出されてきたものとは違います。

 戦略は、マーケットが求めていることと、企業が得意とするケイパビリティの組み合わせである、と私たちは考えます。企業が自らのケイパビリティをしっかりと見極め、マーケットが進んでいく方向を見据えてこそ、戦略はうまく機能します。そして、戦略が企業によって実行可能であることが、戦略成功の絶対条件です。

 だからこそ、単にマーケットを見るだけではなく、企業として保有する独自のケイパビリティは何か、他社の力の及ばない分野で価値を生み出せるか、現在から将来にわたって継続的に実行し続けられるケイパビリティをどのように構築するか、ということを真剣に考える必要があるのです。

従来の戦略論は、儲かる市場に集中するポジショニング戦略が中心でした。儲かるところよりも自分の得意とするところを攻めるべきだ、とお考えなのですね。

 その通りです。長期にわたって成功している企業は、自ら得意とするケイパビリティを明確にし、差別化により成長を達成しています。これが『なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか』で提唱している「従来型の通念にとらわれない5つの行動様式」の一つである、「自社の独自性を貫く」というものです。

 好例がアップルでしょう。アップルは、iPhoneやiPadなど機能的に優れた製品を市場に送り出しています。また、その製品はデザインが洗練されていて、美しいパッケージに包まれて出荷されます。アップルにとっては、デザインこそが彼らのケイパビリティであり、それが競合他社との差別化要素になっていると彼らは考えています。ケイパビリティの優位性を生かした差別化は、マーケットでの競争優位につながるのです。

アップルの事例はわかりやすいですね。その観点から見ると、アップルの著名なデザイナーの存在が優れたデザインを生み出す源泉になっているとも考えられます。優秀な人材を集めさえすれば、企業にケイパビリティが蓄積されるということになりますか。

 順序が違います。企業として、ケイパビリティを定義することが先決です。アップルの場合、早い段階からデザインが重要であることを表明していました。組織のなかにチーフ・デザイン・オフィサーが存在するのもその表れです。

 そして、畑違いとも思えるファッション業界のデザイナーなどがアップルで働きたいと考え、アップルも彼らを積極的に採用しています。企業にケイパビリティが構築されていれば、ケイパビリティに合った人材を惹きつけることができるようになるのです。

 そのためには、企業が自らのケイパビリティを、企業活動の目的や戦略とともに、きちんと説明しなければいけません。そうすることで、企業としての価値、企業としての優先順位が、広く社会に伝わるからです。

 企業の優先順位が不明瞭であると、非効率な分野に投資し過ぎてしまう弊害を生み出してしまいます。そうなると、優秀な人材を惹きつけられないだけでなく、そうした人材を維持するコストさえ捻出できなくなってしまいます。

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