あるスタートアップの奮闘記:
新興国市場の辺境でモノを売る方法

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小売チャネルが整っていないインドの辺境地で、薪ストーブをどう売るか。社会起業家が体験をつづる本記事には、BOPビジネスの要諦が凝縮されている。


 今夏のニューヨークで猛暑が続くなか、私は生まれて初めてエアコンを買った時のことを思い返していた。それは大学を出たばかりの身には大変な出費だったが、おかげで生活の質が十二分に向上した。

 私は当時、インターネットで消費者向け調査の要約をいくつか読み、友人や同僚にアドバイスを乞い、地元の電気店に向かった。店主は、冷房能力、交換用フィルター、対応面積などの複雑な世界について啓蒙してくれた。30分も経たないうちに、私は台車に大きな箱を載せており、つくったばかりのクレジットカードには300ポイントが貯まった。

 一見するとありふれた取引だ。しかしこれは、確立された小売構造が、米国でいかに私たちの日常に浸透しているかを雄弁に物語っている。

 上記のプロセスが成立するためには、実は多くのことが可能でなくてはならない。私は暑さという問題を抱えていたが、解決策が存在することを知っていた。選択肢についての情報にアクセスできた。選択肢を自分の目で確かめられる物理的な場所があった。助言と推薦を提供してくれる、熟練した店員がいた。そして、この電化製品をただちに手に入れるための資金調達手段があった。

 何が言いたいかというと、いまだ多くの人々にとって、これらの仕組みは存在しないということだ。そこには私の顧客も含まれる。

 私が共同創業者兼CEOを務めるバイオライト(BioLite)は、個人用のエネルギー機器を設計・製造している。これらは電気が通っていない場所で、調理、充電、照明に使うことができる。

 当社がターゲットとする市場は2つあり、互いに大きく異なるが共通のニーズがある。アウトドア愛好家と、新興国市場の低所得家庭――どちらも、「信頼できて安全なエネルギーへのアクセス」を求める人たちだ。主力商品はたき火ストーブ(コンロ)で、火から発電もでき、有害な煙の排出を95%抑える。キャンパー向けに設計したバージョンは「キャンプストーブ」。エネルギーの乏しい環境で暮らす家庭向けの商品は、「ホームストーブ」だ。

写真左はキャンプストーブ、右はホームストーブ 写真:BioLite

 アウトドア愛好家に対しては、ビジネスモデルがすでに存在し、当社も十分に確立された小売構造の恩恵を享受している。名の通った小売店とオンラインの両方で販売し、店舗では知識豊富なスタッフが新規の客に商品の説明をしてくれる。

 顧客は、多種多様なチャネルを使って新商品を見つけることができる。アウトドア用品店に行って、必要な商品を探し、吟味し、選ぶことができる。また店舗での陳列、ユーザーの評価、商品を直接経験している専門スタッフは、どれも購入の決め手となる信頼の構築に一役買っている。

 一方、インドやサハラ以南アフリカの顧客は、ほとんどが都心部には住んでおらず、大規模小売店が進出しない地方部にいる。しかも、彼らは当社の調理用ストーブの存在すら知らない。したがって販売の前に、まず当社の商品を発見してもらう方法を検討しなければならない。

 この課題を前に、我々バイオライトは、やり方を見直す必要に迫られてきた。まったく異なる方法でのビジネスが要求される市場に向けて、販売方法をカスタマイズするのだ。

 当社のエンジニアチームは、最高の機能性を求めて製品を繰り返しテストする。それと同じように、新興国市場チームも、辺境の地で最もうまく機能する販売モデルを模索するために何度も実験を行った。要するに、「大規模な小売チャネルが存在しない地域で、どうやってモノを売るか」である。

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